連続妄想食べログ小説『クイズ王街道、驀。』Q7:1竕の涙。

東大卒の肩書きを活かしクイズ番組でも大活躍するグルメタレント・TATERU(25)が、「宮崎美子の再来」と持て囃される気鋭のクイズアイドル・カゲ(綱の手引き坂46)と繰り広げる東北1泊2日の旅。

相棒を失ったタテルは天童駅に辿り着いた。バスに乗り和菓子屋に向かおうとしていたが、バス乗り場を探すのに苦労した。発車時刻の迫る中、なんとか観光協会の建物の中にバスターミナルを発見した。

一日町で下車。山の方へ向かう路地に入ると間もなく、腰掛庵が現れた。しかし目に入ったのは、「本日の営業は終了しました」という看板だった。

タテルはリサーチ不足だった。腰掛庵は2,3日前から電話で取り置きしてもらわないと商品を入手することはできない。当日に飛び込みで訪れるなんて阿呆なことだったのだ。

齟う歯車。タテルはまたもや百名店に裏切られた。しかも今まで味方であったはずのスイーツ百名店に裏切られた。折けたタテルは、今まで配信してきたこの旅の動画のコメント欄を見てしまった。

「偉そうなタテル、とっとと去ね」「年下の女の子を虐めるパワハラカス野郎」「お前だって間違いばかりじゃねぇか」「タテルってきもいね」
「カゲってやつ粋がりすぎ、こんな女嫌やわ」「光くんの後輩とか言って、全然クイズ出来てねぇw」「大体なんでアイドルが男と2人っきりなんだい?」

怒りが沸々とこみ上げてくるタテル。目に涙を溢れさせながら叫ぶ。
「俺はカッコ悪いことばっかだから何言われてもいい、でもカゲの悪口はおかしいだろ!」

通りに出て辺りを矍すと、和菓子屋などの店屋が点在していた。しかしタテルは駅方面へ、ぶつぶつ恨み節を連ね戻って行く。
「俺をしつこく虐めるクソッタレの世の中め、俺が何悪いことしたって言うんだ」
「カゲの魅力知らずに嫌うなんてどうせ学のない奴ばかりさ。テメェらより遥かに頭良いからな。斃れ陸でなし!」
カゲを失ったことによる喪失感、そして文句言うことに感ける自分に虚しさを覚えた。ここはひとつ、天童に降り立った理由を作りたい。タテルは小さなフルーツパーラーに入り込んだ。

様々な果物を使ったパフェが目を引くが、次の目的地・東根方面への列車の時刻が迫っていたので、ジュースで我慢した。折角山形に来たので山形の果物を使った商品を所望するが、意外と見当たらない。店員に訊ねると、ラ・フランスなら山形産で賄っているとのことだった。

ラ・フランスのジュースを注文。出来上がるまでは予想以上に時間がかかり、発車10分前にようやく完成した。タテルは店を飛び出し、歩きながら飲んだ。待った甲斐あってか、洋梨の官能的な濃さがストレートに表現されていた。

「今度来たらゆっくりパフェ食べよう」心を落ち着けたタテルは、生まれ変わって次の街へ進む。

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