連続妄想食べログ小説『クイズ王街道、驀。』Q6:餌を見つけて猋る。

東大卒の肩書きを活かしクイズ番組でも大活躍するグルメタレント・TATERU(25)が、「宮崎美子の再来」と持て囃される気鋭のクイズアイドル・カゲ(綱の手引き坂46)と繰り広げる東北1泊2日の旅。

山形駅に戻って来た一行。漸寒の空はタテルを嘲るかのようにスカッと晴れていた。
「今から蕎麦屋を目指す。ちょっと歩くけど、いいかな…」
「行ってみないとわからない、行くしかないです」

店が近づくにつれ、タテルの心臓の鼓動は速くなっていった。もしここも休業だったら…迸りを受け続けるカゲのことを考えるだけで胸が締めつけられる。
するとタテルは店に向かう2人組の男性を見かけ、矢庭に走り出した。
「タテルさん⁈」

店は営業していた。そして急いだお陰で、空いていた最後の1卓に滑り込めた。抜かされた男たちは待つ羽目になった。
「タテルさん、端ないですよ」
「悪い悪い、癖なんだ。開いてるってわかったら走り出さずにはいられなくてさ」
心拍数の上がった巨体に笞ったタテルは座敷の壁に靠れた。

「折角ここまで来たから鱈腹頼もう。二色蒸篭と天ぷらだ!」
日本酒と昆布佃煮で場を繋ぎつつ、出てきた蕎麦は極細の麺。変わり蕎麦の菊切りに至っては、熱ったタテルの体を冷ましてくれそうな涼しげな透き通り方をしていた。しかし細すぎて腰というものがない。水を飲んでいるかの如く消え行く蕎麦。香りは微塵も感じられず、あっさりという名のしつこさに腹がやられる。菊切りは普通の蕎麦との差が不明瞭であった。
一方で一度は裏切られた天ぷらだが、ここので十分美味しいではないか。衣は少々厚めだが均等に揚がっており、タネも誤魔化しがなかった。

「座敷っていいね。俺、オカンが足悪いから座敷に座る機会なくてさ…」
「わかりますその気持ち。おばあちゃん家に上がるほっこり感というか…」
「カゲって自分のこと、村人みたいって言ってたよね。この雰囲気にぴったりだ。君と戯れたくなってきたよ」
「何言ってるんですか!」
差いかけていた2人の気持ちは、1つになろうとしていた。しかしタテルにはやらなければならないことがあった。


山形駅に戻った一行。
「電車の時間までまだあるよね…よし、展望台に登ろうか」

西口にある霞城セントラルの展望室。
「ユウカ、クイズの時間です」
「また⁈ってかユウカって呼ばないで!」
「3rdステージはバラマキクイズ。展望ロビーに封筒を多数ばら撒きました。1枚ずつ取ってきて僕にください。問題が入っていれば読み上げます、正解すれば1ポイント。ハズレもあるので注意。電車の時間になるまでに2問正解しないと置き去りです」
「望むところです!」

「ハズレ!」
「うわマジか…」
「大喜利『こんな山形新幹線の愛称は嫌だ』」
「え、どうしよう…いなか」

「ハズレ!」
「また⁈」
「モノマネ『大石田の千本団子を食べる上杉謙信』」
「たぁ〜いせつな1串だからずっと…」

「問題」
「やっとだ…」
「出羽三山に含まれる3つの山とは、月山・羽黒山とあと1つは何?」
「どっちだ…鳥海山!」
「残念!湯殿山でした」

「ハズレ!セクシーひとこと『蔵王連峰』」
「えぇどうしよ…ざうぅぉれん、ぽっ!」

「問題。山形県山辺町出身の理学療法士で、第37回・40回大会でファイナリストとなったSASUKEの有力選手は誰?」
「多田竜也さん!」
「正解。よく知ってるな…」

「問題。女優としての代表作に『楢山節考』などがある、山形弁での軽妙な喋りで『秘密のケンミンSHOW』などのバラエティ番組でも人気だった人物は?」
「渡辺えりさん!」
「違う違う、そっちじゃそっちじゃな〜い」

「おっと、時間です!」
その場に傾れこむカゲ。
「あと1問だったけど残念!ここでお別れとなります。カゲ、視聴者の皆様にひとこと」
「まっしぐらカデミー、すごく楽しかったです。不器用な私でしたが、ここまで残ってこれたのは皆さんの応援のお陰です。視聴者の皆さん、そしてタテルさん、ありがとうございました…」
涙ぐむカゲ、そしてタテル。

「私タテルは次の舞台へ皆さんをご案内します。カゲ、いい夢見ろよ、あばよ!」
タテルは天童方面の電車に乗り込んだ。東京に帰ろうとするカゲ。
「あれタテルさん、スーツケース忘れていってる…」

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