連続ラーメン百名店小説『東京ラーメンストーリー』 1杯目(喜楽/渋谷)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

ヨシモト∝ホールでの出番を終え、タテルは渋谷の街に繰り出した。他の芸人達が兆楽に向かう中、タテルは今日も独り違う店へ歩みを進める。
「俺らの庭兆楽、タテルだけいつも来ないよなぁ」ジャック・ルビー伊東が嘆く。
「あいつ、こういうところの飯なんか口に合わないんだって」ジャック・ルビー畑中が告げ口する。
「腹立つなぁ。たまには人に合わせろって。あいつ近いうちに不倫するんじゃね?多目的トイレで」
芸人仲間からの評判は悉く悪いタテル。だが当の本人はそんなこと気にせずラーメン屋に向かう。

  

喜楽。ラーメンの名店でありつつおかずもあるので、こちらはこちらで町中華である。奇しくも兆楽と似た名前だ。
ラーメンの名店としては珍しい2階建て。タテルは1階のカウンターに通された。

  

すると2階から、若い女性たちが降りてきた。その中の1人に、タテルは見覚えがあった。黒く艶めいた髪、女性でも惚れてしまうような低い声。もしやこの子、京子では⁈
しかし晩生なタテルは話しかけられる訳がなかった。女性たちはそそくさと店を出て行った。

  

ラーメンがやってきた。たっぷりのチャーシューとワンタン、そしてもやしが載っている。
ワンタンは力強く、香り重視という最近の流行の逆を行く。久しぶりに出会ったベーシックなワンタン。心がホッとするタテルであった。
チャーシューも昔ながらの仕上がり。しかし一流レストランの蕩けるような肉を食べ慣れたタテルには硬すぎたようだ。

  

そうした懐かしい味わいの中にも目新しさがあった。フライドオニオンが入っているのだ。そのままだと単調になりそうな1杯。フライドオニオンのアクセントは大事な役割を果たしていた。

  

それにしても重い1杯である。町中華界の二郎と言えよう。
京子はモデルの仕事を始めてからラーメンを節制しているはずだった。そもそもこんな渋谷のど真ん中にお忍びで来るとは思えない。あの子は絶対京子ではない。そう思ってはいたが、一方で華奢な見た目とは裏腹に二郎を完食できるという京子。諦めきれない気持ちが、次のラーメン屋へと心を突き動かしていた。

  

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