グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。
雷門に戻ってきた。ここは年中人で溢れている。仲見世のメインストリートは避け西進し、オレンジ通りから北進することにした。
「スターの手形!俺たちもここに手形残せるよう頑張ろう」
六区通りに入り、捕鯨船に差し掛かったその時、タテルは秘密基地のことを思い出した。
「この前言った秘密基地なんだけど、君の知り合いのPOISONスリルバンビーナみたいにどっかマンションの1室を借りよう。そこでネタ作るんだ」
「ネタ?やらないやらない。お笑いは好きだけど、私はアイドルよ」
「やっぱそうだよな。でももし事務所が許すのであれば、一緒に動画とるとかしたい」
「…」
「着物を落とした方〜」東洋館の前で芸人が声をかける。
「タテルくん、アンタでしょ」
「持って帰んなきゃダメ?荷物なんだけど」
「当たり前でしょ!常識知ってんの⁈」
タテルは渋々着物を受け取った。
「四次元ポケットがあればなぁ」
ビューホテルを通過し、言問通りに入った。浅草の喧騒はそこにはなく、2人きりの時間を歩いていく。入谷駅に着くと、お目当てのラーメン屋はもう近くだ。
「『晴』か。今日は雨だからな。せめて気持ちだけでも晴らしてもらおうか」
「雨だっていいことあるじゃん。雨音聴くの、好きなんだよね」
「部屋の中にいる分にはな。俺の知らないところで降っててほしいわ」
「もう、早く入って!」
タテルは濡れた着物を傘立ての横に置き、店に入った。
煮干ラーメンの名店ということで、八王子での失敗があったタテルは中華そばを回避。公式Twitterで下調べして気になっていた、濃厚そばを注文した。組成は日によって違い、この日は鯵2種背黒平子白…呪文のようだ。謎解き大好きな2人を以てしても、この謎は完全に迷宮入りだ。
一口啜ったタテルは目を見開いた。これは美味い!
ここまで濃厚にしてしまえば、苦味がああだこうだ言えまい。魚介臭さが目立つのでは、という心配も杞憂に終わった。あまりの美味しさに思わず替え玉を注文したタテル。輪郭のはっきりした麺が、濃い煮干スープによく合うのだ。
「京子、美味しかったよこの1杯。また来たいな」
「喜んでくれて嬉しいな。タテルさんなかなか満足してくれないから…」
「ごめんって」
「そうだ、秘密基地の件、付き合ってあげてもいいよ」
「ホントに?やったー!じゃあ部屋探しに行くか」
こうして2人は不動産屋に行き、入谷・三ノ輪周辺の物件を探した。
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