グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。
ヨシモト∝ホールでの出番を終えたタテルに、おにぎりタマホーム酒井が声をかける。
「おいタテル。最近なんか色めき立ってるな」
「そう?」自覚のないタテル。
「お前今日こそ兆楽に来るんだ。少しは俺らと付き合えよ」
「わりぃな、今日はタイツはなわに会うから浅草行くんだ」
「ウソつけ、オメェの分際ではなわさんに会えるわけねぇだろ」
「銀座線銀座線〜」聞く耳を持たないタテルは上着を脱ぎ捨て、着物姿に早変わりした。
「なんだアイツ⁈絶対ゴシップ狙ったるわ」
銀座線を乗り通し浅草に到着したタテル。亀十の前に、京子の姿があった。
「ヒョー・ショー・ジョー!サトウキョウコ殿、アナタは昭和ごじゅう…昭和60年初場所において」
「何ですかいきなり?」
「着物着たらやりたくなっちゃってね、オイラ銀座線の車内で書いてきちゃった、道場三三七郎みたいに」
「誰その人?」
「鉄人。和食の料理人。その場でお品書き書くのがお決まりの流れ…ってボケを説明させるな!」
「ふーん」興味なさげな京子。
「そうだ、今亀十でどら焼き買ったんだ。私は白あんが好きだけど、タテルくんはどっちが好き?」
「オイラは京子が好きなやつが好きだ」タテルは足立区のたけしのようにカッコつけた。
「もう、白あんって直接言って!」
ラーメン屋に向けて、仲見世から続く道を南進する。
「タテルくんどうしたの?全く意味わかんないんだけど」
「前回の西荻窪、俺って全く普通だったじゃん。恥ずかしくなって、その反動で大ボケこいちゃった、テヘッ」
「ふーん」
「もしかして…迷惑だった?」
「当たり前でしょ!人いっぱいいるところで表彰状読み上げられるなんて、恥ずかしい」
「そんな怒らなくても〜」
「私普通にラーメン食べに来ただけなの!」
これが2人の初めてのケンカであった。でもタテルは、普段キョコーフロで観ている諍いに自分が参加できたような気分になって、嬉しかった。
喜多方ラーメンの店の角を西へ曲がるとすぐ、鴨ラーメンの人気店が現れる。中華ソバビリケン。YATTETRY!ラーメン大賞のポスターがある店にはとても似つかわしくない、着物姿の大ボケ大男と美しすぎる女神。
「京子のぶんの着物、持ってきたけど」
「着ません。カップルじゃないんだから」
「つれないな…」
タテルは落胆に似た興奮を覚えていた。これが京子の通常運転なんだ、と。
ラーメンがやってきた途端、タテルは顔をしかめた。
「え!なんかこれ臭くない?」
「なんかここ明るくない?みたいに言わない。そんなこと言われたら私まで臭く感じてきたよ」
麺は手打ちで、臭いさえなければ期待を持てる代物だった。そしてこの店の大きな特徴である鴨肉には、トリュフをはじめとしたキノコ類のペーストが載っていた。月1でフランス料理を食べているタテルの舌には合いそうなものであったが、ファーストタッチの悪臭は最後まで心を開かせなかった。鴨肉自体には臭みはないのに、一体何が原因だったのか。
「ふぅ、美味しかった!今までにない香り」
「そっか…おいらは芳しきキノコなんて慣れっこだから、『今までにない』とか信じられない。だいたいトリュフを使っただけで満足してるやつ…」
「あぁもううるさい!行くよ、次の店」
「いいんですか京子さんそれで?おいらは何でも正直に発言する君が好きなんですけど。その『美味しかった』、嘘偽りないですか?女ひろゆきとしてどうなんですか?ファイナルアンサーですか?」
執拗に責め立てるロンパールーム王タテルを尻目に、京子は仲見世方面へスタスタと歩いていく。
「聞け!ってか着物って居心地悪いですね」
タテルは着物を路上に放り投げ、京子の後を早足でついていった。
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