連続ラーメン百名店小説『東京ラーメンストーリー』2杯目(はやし/渋谷)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋の話。

  

マ・ララの楽屋入りまではまだ時間があった。お腹にも余裕があったため、向かいにあるもう一軒の名店を訪れることにした。学校終わりの高校生が多く並んでいた。歳は7,8つしか違わないのに、高校生の流行りなどよくわからない。歳をとったものだと、弱冠25歳のタテルは痛感した。

  

その奥に、まさかの光景を見た。喜楽ですれ違った、あの黒髪の華奢な女性がいた。今度は独りだ。行列の最中だったので、今度は見極める時間があった。気づかれない程度に顔を覗き込む。
「ん?これは京子なのか?」
テレビで見かける京子とは目の大きさが違った。
冷静に考えるタテル。
「さっきあれだけボリューミーなラーメンを食べて、2杯目なんて食うわけないよな…」
京子じゃない、と言い切ってしまえばそれまでだったが、すっぴんの可能性も捨てきれない。悩む相貌失認のタテル。京子の隣に座れることを願い待ち続ける。

  

しかしタテルに用意された席は、京子らしき女性の2つ隣だった。女神の姿は小太り眼鏡のおっさんの影に隠されてしまった。

  

ここは真面目にラーメンと向き合うことに。
豚骨醤油といえば良いのだろうか。濃いけど濃すぎない。あっさりした感覚もありバランスがとれている。少々存在感の強い麺との相性もピッタリだ。
さらに柚子の皮が一片載っており、香りのアクセントを演出。ミシュランの認める名店にありがちなニクいやり口である。

  

実に上品なラーメンを味わっている最中、京子らしき女性が退店しようとしていた。するとその女性はタテルに気付き声をかけた。
「さっきも一緒でしたね。ラーメン好きなんですか?」
「は、はい、す、き、です…」
タテルは不覚をとられ動揺した。
「3日後の5時、八王子でどうですか?煮干しそばの名店があるんです」
タテルは意味がわからなかった。これはもしかして…誘われている?
「い、いきましょう」
その返事を受け、女性は爽やかな笑顔で店を後にした。

  

状況を飲み込めないタテル。ラーメンを平らげ、マ・ララの楽屋に入ったが、頭の中は京子らしき女性のことでいっぱいだった。
そうこうしている内にコーラスラインの出番が来てしまった。
「ラーメンつ…」
あっという間に10人の観客が「つまらない」の札を上げ、タテルのネタは強制終了となった。

  

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