連続バレンタイン小説2024『日仏ショコラバトル』仏-2(Maison Ferber/Colmar)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」と「檜坂46」によるチョコレート対決が行われることになった。綱の手引き坂は特別アンバサダー・タテルの力を借りて日本のチョコレートを、檜坂はフランス帰りのプロデューサー・カケルの力を借りてフランスのショコラを実食、厳選した5粒をチョコレート通でお馴染みのレジェンドアナウンサー・輔古里江(たすく・こりえ)氏が審査し雌雄を決する。

  

「この国における年に一度のチョコの祭典。我らがフランス組は、ショコララヴァーシップに則り、自由・平等・博愛をモットーに日本組と戦うことを誓います!」

  

「カケルさん1人でサロンデュショコラに行ったんだってよ」
「そこで偶然naちゃんと会ってデレデレしてたって」
「何がおかしい」
「聞いてたし」
「周り女性ばっかじゃないですか?戸惑いませんでしたか?」
「別に。むしろ女性ばっかというのがおかしいんだよ。男が自分でショコラ選んで何が悪い?性的マイノリティの人はどう…」
「はいはい。楽しいショコラパーティなんですから、カリカリしないでください」
「そ、そうだな…」

  

「今日みんなに食べてもらうショコラはこちら!」
「わぁすごい、盛りだくさんですね」
「カケルさんったら、大箱ばかり買うんですよ。ワイルドだなぁって」
「何が悪い。むしろ大箱の方が1粒あたりの価格が下がるからお得なんだ」
「カケルさんも意外と堅実なんですね」
「意外って何よ」

  

「1箱目はクリスティーヌ・フェルベール氏の28粒入りボックスだ」
「かわいい箱!」
「だろ。マダムフェルベールは自然豊かなアルザスに店を持つパティシエだ。一番の人気商品はジャムだけど、ボンボンショコラも有名なんだね」

  

「カケルさん、『マンジャリ』って何ですか?」
「フランスきってのチョコレートメーカー『ヴァローナ』自慢の製菓用チョコだ」

  

その名に恥じぬ、綺麗で優しい香りのマンジャリガナッシュ。これがベースになったガナッシュショコラも多く、この後の楽しいショコラヴォヤージュを保証してくれる1粒である。

  

今のショコラを起点に左縦一列を攻めていく。続いてはローズ&フランボワーズ。香りはフランボワーズの酸が強めだが、口に含むとローズの雰囲気に変わり、段々とフランボワーズが顔を出して混ざり合う。
バニラマンジャリはマンジャリに加えバニラのお淑やかな香りで美しさが倍増する。
スミレ&カシスはカシスの味が強めだが、スミレの空気感で酸味が丸く収まる。

  

皆が紙皿やティッシュの上にショコラを置く中、naだけが歴とした皿を持ち込んでいた。
「あれ、カケルさんもティッシュの上に置いてますね。せっかくのショコラなのに」
「naがガチすぎるだけだよ。カフェじゃないんだから」
「高級なショコラには高級な器を合わせる。これがお嬢様の基本ですわ」
「俺は叩き上げだから俺流を貫くよ」

  

アーモンドとヘーゼルナッツのプラリネ。プラリネと聞くとザクザクしたものを思い浮かべるが、フェルベールのプラリネはペースト化したものであり、ナッツの空気感を滑らかに落とし込んでいる。
山の蜂蜜は、蜂蜜独特のねちっこい香りがチョコに溶け込み良い感じに広がる。
コーヒーはコーヒー豆を脳に浮かべる程苦味を押し出している。逆に胡椒は胡椒の風味弱めで普通のチョコとしか思えず。フェルベール氏の優しい芸風には合っていない気がするのだ。

  

「みんな、すぐ咀嚼するなよ。少しだけ噛んで、口の中で溶かすようにして」
「カケルさん、どれくらい噛まないでいれば良いのでしょう」
「最後まで噛まないでいると外側のチョコだけが残るし味も薄まる。ガナッシュと外側のバランスがとれそうなタイミングを見計らって咀嚼するんだ」

  

パッションフルーツ(以下PF)はチョコであることを忘れてしまうくらいPFの力が強い。一方ジャスミンの花は、ジャスミンの香りが穏やかに、でも確かに感じられる。
ミントの花は全くわからず。よくよく考えれば、ミントは花じゃなくて葉に特徴的な味香りがあるはずだ。
レモンピール入りヘーゼルナッツプラリネは、レモンの味・香りがねっとりしたプラリネによく融合している。

  

ここから3点はコンフィとアーモンドプラリネの2層シリーズ。まずオレンジコンフィはアーモンドが強く、オレンジは香り付け程度に感じた。
レモンコンフィはレモンがまあまあ酸っぱめであり、アーモンドプラリネの甘さで整える。
フランボワーズはフランボワーズの落ち着いた甘味がアーモンドプラリネに上手く溶け込む。一番まとまりが良いのはフランボワーズであろう。
オレンジピール入りヘーゼルナッツプラリネは印象薄め。

  

「カケルさんは全部食べたんですか?」
「ああ。だから俺の中である程度の結論はできている。でも1人だけだと心許ないからみんなの意見も取り入れたい。タスク氏は俺と真逆でチャーミングな方だからな、みんなの温度感も大切にしたい」

  

ヘーゼルナッツマンジャリはヘーゼルナッツがマンジャリに負けてしまっている。
ヘーゼルナッツプラリネは一転ジャリジャリしたプラリネで、香ばしさの中に時折現れるヘーゼルナッツの香りが楽しめる。
終わったと思ったら実は残ってたコンフィ&アーモンドプラリネの粒。アーモンドの力強い味にカシスが乗っかってくる。合わないように思えるが納得いく組み合わせで、前言撤回、カシスが優勝である。
生姜ヘーゼルナッツは生姜の尖った味を抑え、芳香だけをプラリネと融合させている。
「生姜ってフランスでも食べられているんですか?」
「食べるよ。何なら塊を丸齧りすることもある」
「冗談よしてください」
「ホントだから。俺もびっくりしたもん。あとね、男に生姜をあげるとすんごく喜んでくれるよ」
「なんか含みのある言い方…」
「アソコがエッフェル塔になるらしい」
「ちょっとちょっと!」

  

オレンジはフェルベール氏のように優しいオレンジの味に癒される。
(レモン)
(先述と同じPF)
パッションフルーツとのコラボ、まずはバニラとの出会い。パッションフルーツの強い酸味を、バニラの味が上手く揉んでくれる。
「正直言ってあまり味わかんないよ、って人」
メンバーの半数近くが手を挙げた。
「高級ショコラとは得てしてそういうものだ。繰り返し食べれば慣れるから安心しろ。そういう人たちでも、これの違いはわかると思う」

  

箱の隙間を埋める粒々のショコラ。小粒ではあるがビターチョコの優しい甘みを強く感じる。これには先程手を挙げたメンバーも目を見張る。
カルダモン&パッションフルーツは、とろけるガナッシュにパッションフルーツの味がよく合う。カルダモンのピリッとした刺激が後から来て溶け込んでいく。
最後はフェルベール氏自慢のコンフィとリキュールの組合せ3連発。まずはレモンコンフィ&キルシュ。キルシュがここぞとばかりに溢れ出し、肝心のレモンの存在感はわからなかった。
オレンジコンフィ&グランマルニエ。オレンジの優しい果実味をリキュールが立てる。
ラストはパッションフルーツコンフィ&ラム酒。ラム酒の強さとPFが相性抜群で、ショートグラスに入ったカクテルが目に浮かぶ。フェルベール氏のイメージとは違う暴力性があるが面白い。

  

「候補は蜂蜜、ジャスミン、生姜、バニラパッション、パッションラムかな。この中から1粒か2粒選ぶ。該当のショコラを食べた人、軽く感想聞かせてくれ」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です