連続バレンタイン小説2024『日仏ショコラバトル』日-1(エキリーブル/不動前)

「おまっとさんでした!」
「さあ始まりました『綱の手引き坂で逢いましょう』、今日も元気な綱の手引き坂メンバーです!」

  

人気女性アイドルグループ、綱の手引き坂46。この日は人気お笑いコンビ・オーラリー(豪徳寺・後楽園)が司会を務める冠番組『つなあい』の収録で、放送日が初午の日にあたるということで『コンコンウマウマ大決戦!』が行われていた。

  

「ウマウマブロック優勝は、キャプテン・グミ!」
「やったー!」
「さすが三十路の貫禄でした」
「もう〜、三十路とか言わないでください!」
「はいはい。そんな三十路グミ、そしてコンコンブロック優勝の陽子にはご褒美があります!」
「どうも、綱の手引き坂お抱えパティシエの德永です」
「德永さん!」
「陽子ちゃん、お久しぶり。いつも楽しませてもらってますよ」
「ありがとうございます!」

  

そこへ綱の手引き坂特別アンバサダーのタテルも入ってきた。
「德永さんすみません、なかなかオファーできなくて」
「寂しかったですよ。いつお声がかかるのかと」
「申し訳ございません。溜めていた力をここで発揮しちゃってください!」
「はい!今日の優勝商品は、フルーツをテーマにしたボンボンショコラ5粒セット『フリュイ』です!」

  

「うわぁ!煌びやか!」
「いいなぁグミさん陽子ちゃん」

  

早速2人はショコラを手にする。まずはライチ。ライチの味とは分かりにくいが、ライチと思しきものが醸す明るいニュアンスはガナッシュの中にあった。
「それにしてもガナッシュがすごく滑らかですね。フランスのショコラには無い繊細さです」タテルが喋り出す。
「タテルさんも食べたんですか?」
「ああ勿論」
「ズルいですよ」
「德永さんを引っ張ってきたの、俺だからね」
「じゃあタテルさんのオススメ教えてください」
タテルが選んだのは、箱の中で一番幅を取るパインパッションココ。セミドライっぽいパイナップルの果実が入っている。
「もろ果実です。思いっきり良いですね」
「そうなのよ。その果実がパッションフルーツとココナッツガナッシュに胴上げされている。面白いですね」
「タテル様、ありがとうございます」

  

「おっと、ここで我々オーラリーより1つお知らせがあります。後楽園さんお願いします」
「はい。『日仏チョコレート合戦』開幕!」
「日仏チョコレート合戦⁈」
「これからバレンタイン期間が始まるとのことで、今から皆さんには最高のショコラを5品前後選んでもらいます」
「楽しそう!」
「あくまでも戦いだからね。楽しいだけじゃダメですよ。勿論タテルくんと協力していただいて構いません。そして綱の手引き坂は日本チームです。日本のショコラティエ・パティシエが作る商品を選んできてください。ボンボンショコラ、ショコラサブレ、テリーヌショコラ、生チョコなど、チョコ製品として認められるものであれば何でもOKです」
「フランスチームのメンバーは?」
「フランスチームは檜坂46です!」
「えぇ!」
「特別プロデューサーのカケルさんが指揮権を握ってるらしいっすよ」
「…」言葉を失うタテルとメンバー達。
「どうした皆、檜坂と仲悪いの?」平気で傷を抉る豪徳寺。
「檜坂はいいですよね、海外も行けてラビットにも出られて」
「格好良い曲たくさん貰えて」
「ふーん、そうなんですか…」
「いや雑だな!吹っかけておいて何よ!」
いざという時は役に立つ後楽園、何とかその場を取り持った。

  

「2月下旬に審査が行われますが、審査員を務めるのは、チョコレート好きとして知られるフリーアナウンサーの輔古里江(たすく・こりえ)さん!」
「…」
「あれ、みんな知らない?」
「『アイシー・この・せかい!』とかやってるの知らない?」
「知らないです。おじさんノリやめてください」
「タテルくんは知ってるよね」
「勿論です。マツコの知ってる世界に出てましたよね。三重県イセ市出身、東京リカ大卒で」
「俺らより詳しいな!」
「タテルくんが一番のおじさんじゃん」

  

収録終わりのタテルは焦っていた。
「ちょっと待てよ、輔古里江氏が審査する?あの人海外のショコラばっか食べてるイメージあるよな…俺ら不利じゃん!」
「タテルさん、どうしたんですか?」ヒナとコノが駆け寄る。
「ああ、さっき発表された対決、勝ち目が無いんだ」
「そんなこと言わないでくださいタテルさん」
「タテルさんらしくないですよ。グルメは何でも任せろ、って言ってましたよね」
「俺そんなこと言ってない…生魚とか苦手だし」
「でも今回はスイーツですから。ほら、德永さんがケーキを置いていって下さりました。一緒に食べましょう」
「ホント⁈食べたかったんだ!ありがとうな」
「急に元気になった」

  

賜杯を逃したメンバーがケーキの前に群がる。人気のマロンラムレザンやシブーストは既に狩られており、タテルに残されたのはシュークリーム、チーズケーキ、チョコバナナケーキであった。

  

「チーズケーキ、めっちゃ美味い。チーズケーキらしくないフローラルな香りなんだけどクセになるよね。ベースはしっかりチーズだし」
「ですよね。東京にはこんなチーズケーキがあるんだ」最年少ベリナが感服する。

  

シュークリームは生地の存在感が強く、クリームもそれに合わせ強くできている。

  

「チョコバナナケーキ、エグいね。チョコの部分からガチだもん」
「どの辺がガチなんですか?」
「フローラルなカカオ使ってるね。ペルー産?」
「味だけで産地わかるものなんですね」
「そうなんだよ。でバナナと合わさると理想のチョコバナナ。スポンジも一体となって素晴らしい口溶け。飽きも来ず最後まで楽しめる」

  

満足したタテルはグミと陽子を呼び出す。
「2人とも、残りのチョコ食べた?」
「まだです!」
「この箱の中から1粒だけ代表を選ぼう」
「流石タテルくん、仕事早いね」
「カケルに勝つのに、ああだこうだ言ってる暇無いからね」

  

早速フランボワーズから。フランボワーズの味とミルクチョコのコクを一対一に対応させた、バランスの神・德永氏の本領が発揮された1粒である。

  

次はオレンジ。マンダリンナポレオンにより大人の味わいになっていて、陽子は渋い顔をした。
「ちょっとアレかな…」
「お酒入りだからね。それにマンダリンの皮にはちょっとしたクセがあるから、食べ慣れてないとアンナチュラルに感じるんだ」

  

最後はアップルパイ。果実の画が丸々脳裏に浮かぶくらいフレッシュな林檎の味。そこにパイ生地がやってきて口の中でアップルパイが完成する。でもベースにはチョコがいて、不思議な1粒である。

  

「俺はアップルパイがいいと思うな。でも2人の意見も頂戴」
「パイナップルも捨て難いですよね」
「そうですね。なかなか無いタイプでしっかり美味しくて」
「輔さんはどういうのが好きなの?」
「インスタ見た感じだと完全にフランス中心なんだよな。ガナッシュとかプラリネ、ジャンドゥーヤが主だから、パイナップルのような物出すと認めてくれないかも」
「そうなるとタテルさんの言う通りアップルパイが良いと思います」
「よし、まず1粒決定。待ってろよカケル、今年は俺らの年だからな!」

  

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