連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第6幕:春の風 後編(ディゾン/水道橋)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

起き上がるとそこは現代の神保町であった。
「地味なタイムスリップだな」文句が多い翔。
「ラドリオがちゃんとある…息長く店が残っているのを見ると涙しちゃうね」
「トキさんって感受性豊かなんだね」
「そうなのかな?友達からはよく涙脆いって言われるけど」
「僕、そういう人好きなんだ」
「えっ?」
「優しさに育まれた緻密な感受性を持った人を見ると僕はハッとする。こういう人と一緒ならば、趣のある人生を送れる、そう思うんだ」
「翔さん…じゃあもう一回ジェットコースター乗りに行きましょう」
「どうしてそうなる⁈」

  

水道橋へ向かう道すがら。
「時生翔さま、守田トキさま。お久しぶりです、『時をかける処女』代表のま○ぽです」
「あ、はい…」
「翔さん、今のところ貴方は主演として力不足です。このままではチョメチョメできませんよ」
「余計なお世話だっちゅうの」
「今日行くカフェのシーンを撮ったら、トキさんは帰っていただいて、翔さんは東京ドームホテルに来なさい」
「命令口調ムカつくな」
「まずは自分なりの反省をした結果、次のシーンで見せつけてください」
「わかりました…」

  

次のシーンは水道橋南口にある「ディゾン」にて。休日の13時近くで2組の待ちが生じていた。カフェという特性上待ち時間は長い。

  

「ドゥボンクーフゥのケーキがある」
「ドゥボンクーフゥ?」
「よく聞き取れたな」
「横文字は得意なんだ」
「頼もしいね。武蔵小山にある人気のケーキ屋だよ」
「武蔵小山か。商店街のイメージが強いね」
「今は高層マンションが建つ街になってる」
「また一つ風情が失われていく…」

  

漸く順番が来て、チーズトーストを頼み席に着く。やってきたのは、厚切りトーストの上に生ハムの載った、昭和では考えられない洒落た食べ物であった。表面はカリッと、中は柔らかく焼かれたトーストに、コクのあるチーズソースがよく絡む。更に生ハムの官能的な旨味と塩気も足され、何とも令和らしい垢抜けた美味となっている。

  

「どうしようか、盛岡行く?恋人に会いに」
「もういいかな。その人生きている保証ないし」
「片道2時間だぞ。サクッと行ってサクッと会って」
「サクッと会えるわけないでしょう。盛岡旅行したいだけじゃないですか。それに私、今は貴方のことが…」
「ちょっと待って!」
「待っちゃダメ!言わせて、貴方が好きだって」
「お、俺のこと、が、す、すき…」
「そう、翔くんのことが大好き」
「その台詞、久しぶりに言われた。言われるとこんなにも心がぽっと明るくなるんだ…」

  

悩んだ末注文したドゥボンクーフゥのモンブランを食べながら、翔は忘れかけていた恋心を思い出す。900円弱とお高めながら栗よりクリームが少々優っているように感じるが、そんなことはどうでも良かった。
「俺、漸く探し当てることができたのかもしれない。過去を行ったり来たりする中で、人生を煌めかせる何かを」
「翔くん、今まで曇った表情してたけど、やっと明るくなった。改めまして、これからよろしくね」

  

︎〽︎どこにいたの探してたよ…
春風に吹かれながら、翔は未来への希望を取り戻した。
「じゃあ先帰ってるね。ま○ぽさんとの面談終わったら私の家来て」
「いいの?」
「もちろん。翔くんともっと沢山の時間を共にしたい」
「ありがとう…」

  

そしてま○ぽとの面談。そこには麗奈の姿があった。
「今から麗奈さんと5分だけ会話を許可します。なお、トキさんとの関係については話さないでください。不適切な言動があれば電撃が流れます。それではスタート」

  

「麗奈、元気にしてるか」
「してるよ、寂しいけど。翔くんも元気で良かった」
「元気になれた。トキさんがお…」
電撃。
「何言おうとした?」
「トキさんが…」
電撃。
「トキさんがァァ!お!れェ!のことはァ!げましてくれ!て!」
「翔さん、電撃我慢は禁止です」
「そうなんだ」
「何とか生きていられる」
「それは良かった」
「昭和の暮らしは不便だな。スマホも無いし風呂も無いし。でも温かみはある」
「スマホが無い生活もたまには良いかもね」
「俺、コーヒーが好きだってことがわかった。一流のバリスタ目指してみようかな、なんて思ったりしてる」
「いいじゃんいいじゃん。翔くん、表情明るくなったね」
「それ今さっきトキさんにも言われた」
「さすが私のお母さん。考えること一緒なんだね」
「うん…」
「はいはい、時間ですよ!翔さん、トキさんの家に戻ってチョメチョメしてください!」
「そんなこと言うな!でも、楽しいねこの生活」

  

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