不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」のスタッフを名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。
〜第5幕:大人ぶる〜
東京ドームに遊びに来た翔とトキ。
「こんな大きい球場できたんですね」
「そうなんだ、トキさんの時代には無いのか。じゃああのドームシティも…」
「あるわけ無い。それにドームシティって何?」
「遊園地」
「それ、後楽園ゆうえんちじゃなくて?」
「逆に何それ?」
いつものようにジェネレーションギャップ喧嘩をした後は、ドームシティ名物のジェットコースターを楽しむ。
「やだやだ怖い…翔くんよく平気でいられるね」
「浮遊感が気持ちいいんだよ」
「良くない良くない!うわぁ落ちる落ちる!ぶつかるぶつかる!」
「ハハハ。楽しいなぁ!」
ドームシティを満喫した2人はコーヒーを飲みに神保町方面へ向かう。
「昨日『月曜から夜ふかし』っていう番組観た。めっちゃ面白いね」
「でしょ?あんだけ開放的な番組は現代には無い」
「めっちゃ笑った。そこで目にしたんだけどさ、現代の若者ってテレビ観ないんだね」
「そうそう、テレビ離れってやつ」
「何で観ないんですか?」
「番宣で来た俳優を持ち上げたり、芸人やタレントがVTR観てコメントするだけの番組ばっかなんだよね」
「ドリフみたいな番組は無いんだ?」
「無いね。制作費とかだいぶ削られてるし。家にテレビが無い、なんて人もざらにいるよ」
「信じられない。そういう人達って何して過ごしてるの?」
「YouTubeっていう動画サイトがあるんだけど」
「ゆーちゅーぶ…」
「素人がしがらみとかなく自由に動画を撮れて、それを多くの人が観るんだ。それでお金を稼ぐ人のことをYouTuberとか言って、子供の憧れの職業の1つになってる」
「テレビの真似をしてるわけだ」
「真似を超越してる。最近では芸能人も多く参入してるし、完全にテレビの代わりだね」
カンダコーヒーに到着。カフェ百名店にカテゴライズされているがインテリアはレトロである。2人が座るとイートインは満席に、注文口に並ぶ人も4,5人いるなど盛況の店である。
「俺ちょっと変わったの飲もうかな。リンゴみたいな味わいのSIDRAにしよう」
コーヒーを淹れるのには時間がかかる。
「となると、現代人はコーヒーも飲まないんですか?」
「『離れ』って言うほどでは無いかな。会社の人も昼休みの終わり際にはコンビニのコーヒーマシンに並んでた」
「コンビニのコーヒーマシン?」
「既製品じゃなくてちゃんと挽いてくれる」
「へぇ。何でも進化してますね」
「コーヒーのカフェインで目が覚めるんだ。それでも刺激足りない人は魔剤を飲む」
「魔剤?何か良くないものそう」
「良いとは言えないな。添加物まみれだし、甘ったるくてベタベタする」
「自分で豆から挽いて淹れるのが一番だね」
愈々2人のコーヒーが注がれる。SIDRAからは酸味が織りなす綺麗めの香りがした。一方トキが頼んだタンザニアはコーヒーらしい苦い香りがつんとする。
翔のSIDRA。いざ飲んでみるとかなり酸味が強い。何も知らされず目隠しして飲んだら紅茶と勘違いしそうである。
合わせてプリンを頼んだ2人。卵が強めのクラシックなプリンである。鼻が敏感な翔にとっては、卵の臭みがちょっと残っていたようである。
「トキさんのコーヒーも美味しそうだな。テイクアウトで買おう」
SIDRAと比べると当然酸味は控えめで、苦味と少しの酸味がはっきりした味である。ハンドドリップコーヒーの醍醐味を堪能しながらドームシティ方面へ歩く。
「翔くん、さっきのジェットコースターもう一回乗りたい」
「え?さっきあれだけ怖がっていたのに」
「やっぱ楽しかった。あんな高いところまで登っていくの、昔には無いんだもん」
「そうだよね。よし、もう一回乗ろう!」
〽︎そのうちじゃなくて今すぐがいいの…
コースターの上昇に合わせ首振りダンスをして気持ちを昂らせる2人。悲鳴をキーキー上げながらライドを楽しみ、クライマックスの「ビルの壁穴」に達したところで思わず強い力で立ち上がってしまう。
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