連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第4幕:踊り子 前編(炭火焙煎珈琲・凛/銀座)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」のスタッフを名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

1983年にタイムスリップしていた翔とトキ。
♪お昼休みはウキウキWATCHING〜
「笑っていいとも、懐かしいなぁ。夏休みとかよく観てた」感慨深げな翔。
「笑っていいとも?何それ」
1978年からやってきたトキには、1982年スタートのこの番組の存在がわからない。
「1978年のこの枠はたしかドラマよ。てかこの司会の人、私嫌いなんだけど」
「タモリさんのこと、苦手なの?何で?」
「芸が気持ち悪いんだもん。イグアナの形態模写とか」
「知らない知らない。何それ」
「現代のタモリさんはどういう方なの?」
「誰もが知る名司会者。知性的で落ち着いた雰囲気がある。サングラスが象徴的な大御所」
「そんなに人気なんだ。それにしてもそんな長く続いてるんですか、この番組?」
「2014年くらいまで続いてたかな。今は『ぼかぼか』という番組やってる。エンディングでいつも6人組の男性が歌うたうんだけど妙に耳馴染み良くて」
「どんなの?聴いてみたい」

  

〽︎僕か彼かここで決めて…
「ん?それ『踊り子』じゃない?」
「踊り子?伊豆の?それともVaundyの?」
「何言ってんの。村下孝蔵さんの『踊り子』よ」
「わかんないよ」

  

この日は昭和の定番デートスポットといえよう銀座に向かう。地下鉄の車内にて。
「いいともといえば、林先生が有名になったきっかけのひとつでもあったな」
「林先生?」
「ごめんごめん。東進ハイスクールっていう予備校のカリスマ講師なんだ。現代では冠番組多数の売れっ子で、流行語大賞も獲った…」
「流行語大賞?」
「流行語大賞もないのか」
「ない。私達の時代の予備校といったら、予備校に入るために試験を受けなければならないくらいの人気でね」
「そんな人気なんだ」
「代々木ゼミナールに金ピカ先生とかいう英語講師がいるんだ」
「金ピカ先生…そういえば代ゼミも規模縮小してるな。少子化の影響で」
「少子化?」
「子供が減ってるんだ。実感は湧かないけど」
「減ってるんだ…この国の未来が心配ね」
「ちょっと人口が多すぎる気もするから、俺は悪いことではないと思うけどね」

  

銀座に到着。四丁目交差点には和光と三越が今と変わらず建っている。
「三愛ドリームセンターはつい最近取り壊され始めました」
「あらまあ。老朽化かな」
「そうみたい。あとあのビルは何?」
「サッポロ銀座ビル」
「それも今は違うビルになってる。美味しいフレンチの店が入ってたり」
「ライオンくらいしかないけど」
「車のショールームは今でもある。よりスタイリッシュになって生まれ変わったんだ」

  

2人は和光傍の路地にある喫茶店に入った。日曜の昼間であったがカウンター席が空いており、待つことなく滑り込めた。

  

「あれ、もう行列できてる」
「良かった、私達グッドタイミングね」
「銀座で待たずに喫茶店入れたのはラッキーだ。今日はいい日になりそう」

  

ケーキセットを注文。コーヒーは苦味や酸味といった特徴が薄い。
一方クレームブリュレは印象的であった。炙りにより引き出されたと思われるフローラルな香りが支配する。
「こんなお洒落なお菓子食べたことない。美味しい〜」
「現代には色んなお菓子があるんだ。銀座なんてその中心地だからな」
「へぇ〜、じゃあ現代に行ったら片っ端から買おう!」

  

本当はフレーバーコーヒー(モカジャバ)も試したかったが、行列が階段まで延びていたためそそくさと退散する。

  

♪つまさきで立ったまま君を愛してきた…
トキが踊り子を口ずさむ。耳馴染みの良いサウンドに翔はくるくると踊り出す。しかしそこは階段の途中である。
「あっ!」
足を踏み外した翔。引き上げようとするトキも足を滑らせ、2人は真っ逆さまに地上に落ちる。

  

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