連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第3幕:カリスマ 後編(凡/新宿)

不定期連載小説『Time Hopper』
現代を生きる時生翔(ときおかける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に過去にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」のスタッフを名乗る女性が現れ、翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられる。

  

「あれ、なんか古い雰囲気…」
新宿駅に着くと、そこは1983年の世界であった。西口の大まかな構成は現代とそこまで変わらないし高層ビルも多く立ち並ぶ。しかし都庁が見当たらない。
「都庁ってどこですか?」
「丸の内ですよ」
「ままま、丸の内⁈」
「そんな驚かれても。現代だと新宿にあるんですか?」
「そうです。ものすごく高くて、展望台は無料で」
「良いですね。現代に行ったら登ってみたいです」
「はい…」

  

メトロプロムナードを通り抜け(自由通路などこの時代には無い)東口へ移動する。現代でもやんちゃな臭いは拭えきれていないが、この時代の歌舞伎町といったらかなり治安が悪い。
「のぞき部屋、ノーパン喫茶…駄目だここ、歩いているだけで吐き気がする」
「歌舞伎町はこれが当たり前ですよ」
「竹下通りでさえ無理なのに」
「おいそこの兄ちゃん、見ていかないか?」
「いえ、結構です」
「結構です、ってことは見たいんだな。さあこっちおいで」
「嫌ですよ!」
「来るんだ、そして金を落とすんだ!」
「助けて〜!」

  

トキが強い力で引っ張り、翔は何とか解放された。急いで駅方面に逃げ戻り、喫茶店「凡」に入る。カウンター席に着くと2人はコーヒーを注文し、店員の手つきを眺めながらトキは翔に説教をする。
「意気地なしね!きっぱり断りなさいよ!」
「…」
「翔さん、過去未来関係ない話ですけど、強く生きなきゃ駄目です」
「強く生きる…」
「そう。意志を持たない人は流されるがままに闇に引き摺られる。自分を持って、自分が正しいと思う道を見つけ出さないと!」
「トキさん…」
「世の中を治めるカリスマが欲しいんだよね?なら翔くんがなればいいじゃん!」
「俺が?無理無理無理…」
「そんなナヨナヨしてちゃ駄目!シャキッとしなさい、シャキッと!」

  

シャキッと目覚めるためのコーヒーが出来上がった。ちなみにこのコーヒー1杯で1400円と、これまた目が覚めるような価格設定である。青の映えるカップ、そして店内に並ぶ他のカップは全て芸術品として人々の目を引くが、コーヒーの味自体には1000円超えの価値を見出せない翔。500円くらいでも目を見張るコーヒーが現代の巷には溢れているから、1000円超というのはハードルを上げすぎな気がしたと云う。

  

♪人波の中をかきわけ…
「この曲は?」
「ああ、尾崎豊の『十七歳の地図』ね」
「尾崎豊!現代でも大人気ですよ、若い人も歌ってます」
「そうなんだ」
「若くして亡くなりましたけど…」
「は…」
「ごめんなさい、言わない方が良かったですよね」
「大丈夫大丈夫。でも衝撃的だな…」
「彼の魂は現代の人にも受け継がれています。それだけは安心してほしい」

  

コーヒーと共にいただくスイーツ。ショートケーキが名物だと云うが、1700円という価格設定にひよった翔は1000円のガトーショコラで我慢した。しかし口溶けの滑らかさが無くチョコの良さも見つからない。これだけ強気な価格設定では、現代のパティスリー・ショコラトリーレベルを期待してしまうのだ。

  

「立地もあるのでしょうが、なかなか肝の据わった喫茶店ですよね」
「そうね。翔くんもそれくらい堂々とすればいいのに」
「堂々と…」
「この運命受け入れよう。時代に翻弄されているようでは人生苦労するよ」
「これだけ翻弄されたら皆あたふたしますって…」
「まずは敬語やめましょう。私達恋人同士よ」
「そうだった。ごめんなさい…いや、ごめん」
「私達は時代を越えたスーパーカップルよ。大人に何言われても気にしない。誇り持っていこう」
「うん…」

  

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