連続カフェ&喫茶店百名店小説『Time Hopper』第13幕:聖夜って何かね? 前編(アンセーニュダングル/原宿)

現代を生きる時生翔(ときお・かける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れる。翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。

  

年の瀬が迫った1978年の世。現代であれば街はクリスマスのムードに満ちているが、この時代においてもサンタ(に扮した親)がプレゼントを靴下に入れに来たり、取り分けられたクリスマスケーキの大きさを巡って兄弟姉妹が喧嘩する催しは市民権を得ている。
「翔くん、クリスマスケーキは不二家で良い?」
「不二家か。偶には良いかもね」
「『偶には』ってどういうこと?嫌なの?」
「なぜ人はクリスマスになると大きなケーキを食べるのか。普段からケーキを食べる人からしたら迷惑極まりない」
「何も悪いことしてないでしょ?どうして?」
「たまたまクリスマスの時期にケーキを食べたくなった時、予約のホールケーキしかない店が多いこと多いこと。おひとりさまに優しくないんだよね」
「1人でケーキ食べる人なんて、この時代では珍しいわよ。翔くんの時代でも多数派ではないでしょ?」
「まあそうだけど」
「不二家のケーキも美味しいから、一緒に食べましょう」
「わかった。苺のケーキで予約しておいて」

  

12月23日の土曜日、2人は原宿を訪れていた。現代では若者と外国人で溢れかえっている街だが、それは今に始まった事ではなくて、竹下通りは人でごった返していた。人込みを好まない2人は竹下改札を出て左に逃れる。すると途端に人の波は途絶え、やがて1軒のカフェが現れた。
「アンセーニュダングル…入ってみる?」
「ここしかないよね。入ろうか」

  

地下にある入口の扉を開くと、穴場らしく客は2,3組ほどしかいなかった。窓際のテーブルに案内される。
「竹下通りとは違って、落ち着くね」
「待って。私たちの目的地、竹下通りだったよね?」
「あれ、そうだったっけ?」
「そうだよ。惚けないでください」
「俺どうも竹下通りは苦手で。ゴツい黒人男性にやたらと声をかけられて怖い思いするんだ」
「現代はそうなのね。この時代では有り得ないわ」
「まあそうだな。後で行ってみるか」

  

翔はブレンドコーヒーを注文。フレンチコーヒー(=フレンチロースト?)と称するだけあって深いコクがあり、それはクリスマスの時期に相応しいベリー系の果実を思わせるものである。

  

「この時代でも、クリスマスパーティーってやるものなの?」
「やるよ。私の家では七面鳥が出る」
「本格派じゃん。ガチ勢だね」
「何『ガチ勢』って?」
「本気で取り組む人のことを言うんだよ」
「なるほど。私はクリスマスのガチ勢、なのね」

  

コーヒーのお供にチーズケーキを頼んだ翔。今どきのものと違い、飾り過ぎないチーズの味が感じられ、フレーク状に崩れてゆく。懐かしさと品質を両立した逸品である。

  

「翔くんはクリスマス、どうやって過ごすの?」
「いつもは現代にいる麗奈さんと…あぁ、急に腕が痒くなった!」

  

ま○ぽから警告の通知が届く。
「麗奈さんの名前は出さないでください。話がややこしくなります」
「は、はい…」

  

「ごめんごめんトキさん」
「大丈夫?乾燥してるからね」
「友達とちょっとしたパーティーを。フライドチキンを食べるだけの本当に他愛も無いパーティーだけど…」
「フライドチキンなんだね現代は」
「そうそう。ケンタッキーで買って」
「ケンタッキーって、ケンタッキーフライドチキンのこと?」
「そうだよ。現代では当たり前のようにある」
「最初は大阪万博で出店してたんだよね。そんな大きな店になったんだ」
「大阪万博なら2025年にまたやるね」
「なんか向こうのニュースで観た。準備間に合うのか心配だけど」
「オリンピックも万博も、やりたがる都市が少なくなっている。財政難でね」
「ちょっと寂しいね」

  

おかわりのブレンドコーヒーを頼んだ翔。伝票には300円と印されているが、物価高により実際は350円であるとの説明を受けた。
「まあでも記念日を大事にできる人は素敵だと思うよ」トキが説く。
「やれクリスマスだ節分だハロウィンだ、って辟易する現代人も多いけど、善良な民はそれを楽しんでいる」
「せっかくの記念日だもんね、全力で楽しみたいよそれは」
「そっか。じゃあこのクリスマスは、人生で最も印象に残るクリスマスにしよう」
「いいね。じゃあ竹下通りで洋服とか飾りとか買ってみようか」

  

人で溢れる竹下通りの雑貨店でオーナメントを探す2人。
「星型のものがいいよね?」
「星型は天辺だけにして、後は丸じゃない?」
「まあそうか。でも下側の左右に1つずつ星型があると良いかもね」
「じゃあこんな感じか」

  

会計を済ませ、次は洋服店に向かおうとしたところ、突如2人は向こうからやってきた人の群れに飲み込まれてしまった。逃れようにも逃げ場がなく、流れに逆らい身を揉まれる。

  

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