現代を生きる時生翔(ときお・かける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れる。翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。
幸い怪我は無かったが、起き上がるとそこは1978年の渋谷であった。
「どういうことだ!ハロウィンパーティー行けないじゃねぇか!」
「どんなものか楽しみにしていたのに…残念」
混乱する2人の元へ、ま○ぽが現れた。
「これは罰です。あなた方はハロウィンに参加しようとしましたよね」
「そうですけど」
「なんと端ない真似を!ハロウィンの意義も理解せずにただ馬鹿騒ぎするだけ、正直言って下品です」
「(お前の名前の方が下品だろ。何だよま○ぽって…)」
「ハロウィンに携わることは当社のコンプライアンスに反します。せっかく我儘聞いて現代に戻してあげたらこんな有様ですよ。今後は一切特例を認めませんからね。バリスタ学校の方には私から連絡させていただきますから、貴方達は大人しく過去で過ごしてもらいます」
こうして2人は何も無い10月末日の夜を過ごすことになってしまった。とりあえず近くにある喫茶店「羽當」に行ってみる。
「ここ現代だといつも行列なんだよね。外人が殆どだけど」
「外人さんにも喫茶店は人気なんだね」
「日本らしさを味わいたいのかな。コーヒーは万国共通の飲み物だしね」
中のベンチで待つこと15分、カウンター席に通される。目の前には新宿の凡にもあったような、美しいティーカップの数々が陳列されていた。陳列されたカップの写真撮影は禁止である。
「ハロウィンパーティー楽しみにしてたのに何だよこの仕打ちは」
「仕方ないよ翔くん。やっぱり静かな秋の夜長を楽しみたい」
「秋の夜長なんて他の日でも楽しめるでしょ。ああどうすればいいんだ今夜は」
「静かに過ごそうよ。ここにいる人たち皆ハロウィンなんて知らないから」
ブレンドコーヒーがやってきた。翔にあてがわれたカップは謎に中華風で面白いものであった。
「こうなったら夜は中華料理にしよう。ハロウィンのことなど思いっきり忘れよう」
コーヒー自体は苦味が主体である。だが暗闇のステージをパッと照らすような明るさもある。
「渋谷なら喜楽があるよね」
「ラーメンを主とした町中華だ。俺大好き」
「町中華?」
「古風で大衆的な中華料理店のこと。飾り気は無いけど本能的に美味しいと思える」
「お洒落さとか高級さとかいらない、ということね。それは素敵な風潮だと思う」
スイーツに選んだのはやはりかぼちゃプリン。こちらもかぼちゃらしさは感じ取りにくいのだが、キャラメルの香りが良くて本能的に美味と思えるスイーツである。
「秋の夜長ってどうやって過ごすの?スマホとか無いのに」
「まずは読書かな」
「活字ニガテ」
「テレビもあるけど、深夜放送はしていないかな」
「寂しいもんだ。あそうだ、やっぱ歌うたいたい」
「良いね。だけど家の中だと騒音になってしまう」
「公園とかない?ほら、昔なら周りに家とか無い広々とした空き地ありそう。地図アプリで調べて…」
「翔くんいい加減にして。アプリはこの時代に無い」
「そうだった。うっかりしすぎだな俺」
喜楽でラーメンを食べ、取り敢えず家に帰った2人。持参していた仮装グッズは丁寧に折り畳んでしまっておき、お風呂セットに持ち替えて銭湯に行く。熱った体を夜風に晒しながら夜道を歩いていると、見たことのない空き地を見つけた。
「あ、ここなら声出しても怒られなさそう」
「そうね。周りに家も店も無いし」
淡紅の秋桜が秋の日の何気ない陽溜まりに揺れている…
「これはさだまさしさんヴァージョン?」
「そうだね。百恵さんヴァージョンよりキーが低くてテンポが独特」
「味がある。これぞ秋の風景だね」
「ハロウィンなんかに浮かれるよりもずっと良いや、穏やかな秋の風に吹かれる方が」