現代を生きる時生翔(ときお・かける)は、付き合っていた彼女・守田麗奈と共に1978年にタイムスリップしてしまった。そこへ謎の団体「時をかける処女」の代表「ま○ぽ」を名乗る女性が現れる。翔は若かりし頃の麗奈の母・守田トキと共に『ラブドラマのような恋がしたい』という企画に参加させられ、過去と現代を行ったり来たりする日々を送る。
特例で現代に戻っていた翔は、バリスタ学校でのハロウィンパーティを心待ちにしていた。
「トキさん、何の仮装が似合うと思う?」
「仮装?欽ちゃんの仮装大賞に出るの?」
「違うよ。もうすぐハロウィンだからさ」
「ハロウィン?何それ?」
「ああそうか、トキさんの時代には無い文化だった。仮装して渋谷とかに集うイヴェントなんだ」
「集って何するの?」
「何もしない。騒ぐだけ」
「何が楽しいのかな…」
「わからない。でも身内どうしで集まってパーティする健全な楽しみ方もあるよ」
「それなら良いね。そこでも仮装するの?」
「そうそう。だから何の仮装しようかな?鬼滅?進撃の巨人?ウマ娘?」
「全部わからない。鉄腕アトムとかはどう?」
「渋くない?名作だけど」
「じゃあ波平さん」
「やだよあんなハゲ頑固年齢詐称ジジイ」
「口が悪いよ。ああだこうだ言うなら、好きなものにすれば良いでしょう」
「ごめんな文句ばっかで。じゃあカビゴンで行こうかな。トキさんも来る?」
「ハロウィンパーティがどういうものか、一度は試してみたい。私はひみつのアッコちゃんに仮装しようかな」
「いいねノリノリじゃん。ハロウィンナイト、楽しもうぜ」
ハロウィンパーティは夜に開催のため、それまではコーヒーの勉強がてらカフェに行くことにした。渋谷駅から原宿方面に北上した路地にあるコーヒー店「ストリーマー」も、飲み物と共に戴くスイーツがハロウィン仕様となっていた。
「このケーキ、まあ毒々しい色!」
「発色が良すぎるよね。これぞアメリカ菓子だ」
「私たちヨーロッパ派は違うのにしよう」
「ハロウィンと言えばかぼちゃ。だから俺はかぼちゃプリンを食べる」
「良いねかぼちゃプリン。私もそれ貰おう」
暫くして飲み物を受け取ろうとすると、カウンター横のバケツにお菓子がたんまり入っていることに気づいた。
「『Trick or treat!』と唱えるとお菓子が貰える、これもハロウィンのならわしなんだ」
「へぇ〜。じゃあ言ってみる?」
〽︎Nah-Nah-Nah-Nah-Nah, Ready for my show…
「何で歌うのよ」
「普通に言ってもつまんないし恥ずかしい」
「歌う方が恥ずかしいでしょう」
「ハロウィンらしくAdoの『唱』選んだんだけど」
「令和のノリ、いい加減にして。お菓子は要りません」
飲み物はメニューが難解で、とりあえず目についたイーストコーストマイルドハンドローストストリーマブラックバレルのストロングスタイルアメリカーノをシングルで注文した。何が何だかよくわからないのだが、コーヒーとは一瞬思えない軽やかさがあり、でも香ばしさがあってやっぱりコーヒーであると分かる。
「あとハロウィンでやることって何かある?」
「おばけが活躍するくらいかな」
「おばけ?幽霊とか?」
「そうそう。まあ象徴みたいなもので、退治とかはしないけどね」
「やっぱりよくわからないねハロウィンは」
「この国古来の行事じゃないからね。勝手に騒いで、しかも迷惑をかける輩が多いから良くは思われていない。国内では直に廃れるんじゃないかな」
かぼちゃプリンは、かぼちゃらしさというものはわからないが、ドロっとした舌触りとカラメルの香ばしさが印象的である。
「あの炭酸ドリンクも気になる」
「モンスターサイズだってね。相当喉渇いている時じゃないと頼めないよ」
「あれだけ飲んだら虫歯になるよ」
「もしかしてトキさん、お母さんからジュースとか止められていたタイプ?」
「そうだよ。何でわかるの?」
「麗奈さんが言ってたんだ、ジュース飲ませてもらえなかったって」
「私がそう躾けたのね。あまり良くなかったかしら…」
「ダメダメ気を変えちゃ。タイムパラドックスになる」
「そうだった。じゃあこのままジュース禁止で。翔くんも飲んじゃダメね」
「俺はいいだろ」
店を出ると時刻は15時を回っていた。間も無く渋谷には人がぞろぞろと集まり身動きが取れなくなるだろうから、表参道方向に歩いて脱出しようとする。しかし店の前の細道は妙に車通りが多い。
「危ない!」
油断した2人は車に撥ねられてしまった。
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