不定期連載小説『Time Hopper』
「イタタ…って俺達、生きてる⁈」
「良かった、無事だったのね。翔くん、何で飛び降りたの⁈」
「何でって…いや待て、何か街並み古くない?」
「ホントだ。もしかして私達…タイムスリップしてる⁈」
ここは1978年の板橋区大山。この年に誕生したばかりのハッピーロード大山商店街に2人は放り出されていた。人々の会話もまさしく当時のトレンドについてであった。
エアコン買ってもらったんだ。これでもう寒さに困ることはない。
キャンディーズ解散。普通の女の子になっちゃった…
俺はサザンのデビューが衝撃的だったな。何言ってるかわからんけどクセになる。
ずるいぞ江川。巨人は好きだけど江川は嫌いだ。
北の湖も嫌いだ。強すぎて憎たらしい。
「どうすればいいんだ俺達…」
「仕方ない、こうなったら街を歩きながら現代に戻る方法考えましょう」
「よく冷静でいられるな」
「昔から思ってたんだけど、翔くん焦りすぎ。困った時こそ落ち着いて深呼吸して、そうすれば良いこと絶対あるから」
「わかったよ…」
住宅街を暫く歩き、1年前に開通したばかりの首都高5号線の少し手前まで来たところに喫茶店を発見した。喫茶店にしては少し大きめに思える店構え。それでも休日ともなれば行列ができるという。
中に入るとレトロな電子ゲームがあったが稼働はしていなかった。席につきこの店の名物だというホットケーキを注文する。焼き上がりまで30分かかると言われた。
「さっき現代で食べたパンケーキも30分かかったんだけど」
「パンケーキってそういうものでしょ。てか『さっき現代』って言い回し、何か不思議ね」
そこへ謎の女性が現れた。
「時生翔さん、守田麗奈さんですね」
「あ、はい…」
「ご愁傷様です」
「(何よ『ご愁傷様』って…)」
「私はNPO法人『時をかける処女』代表、名前を『ま○ぽ』と申します」
「(色々ツッコミどころがあるけど、まいいか)」
「この度、時生さんは恋愛リアリティ番組『ラブドラマのような恋がしたい〜タイムスリップ・マジック〜』の主演に抜擢されました」
「ど、どういうことですか?」
♪私の人生の中では私が主人公だと
「貴方、人生にお困りのようで」
「あ、はい…」
「この番組はそういう人を救済するために制作されております。時生さんには、過去と現在を舞台に揺れ動く恋を演じていただきたいと思います」
「突然言われても…」
「まあある程度成り行きは用意しますから。でも好きになるならなっていただいても構いません」
「状況が飲み込めないんですけど。現代に戻りたいだけなんです」
「とりあえず最後まで話聞いてください。質問は後でまとめて受け付けます」
「はーい」
「この物語の展開を握る大事なエレメントは『音楽』です。各場面においてキーとなる曲が設定されており、それが流れると翔さんはタイムスリップできる仕組みです」
「…ということは、現代には戻れると」
「戻れますが劇が続いている間は過去との往来の繰り返しです。この辺も用意された成り行きですから、抗うことはできません」
「めんどくさいなぁ」
ここでホットケーキが焼き上がった。これがまた常識を覆すものであって、まず表面はクッキーのように硬い一方中はとろっとしている。ホットケーキでこのような食感の違い、乙張の強さを味わえるのは珍しい。
中は少し生っぽくあるのだが、それがまるで上質なカスタードクリームのようなとろけ方と芳香を演出する。小麦粉の良さ故なのか、本当にカスタードクリームとかヴァニラとか使っているのかわからないところではあるが確かな香りの良さを覚えた。バターやメープルシロップも十分量あり味の変化もつけやすい。
「美味しかった」
「ね。私は現代に戻れるのかな」
「じゃあ翔さんのお相手に出てきてもらいましょうか」
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