アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19)を誘い出し、美味しいかき氷探しの旅をしている。
「タテルさん聞きましたよ、就職なさるんですよね」
「そうだよ」
「会えるの休日だけになるんですよね。寂しいです…」
「俺も寂しいよ。せっかくゴーラーになれて、マリモとあちこち飛び回ろうと思っていたのに」
今日やってきたのは限りなく京橋寄りの銀座。平日でも待ちが発生する人気店「銀座のジンジャー」を攻める。
「あここ知ってる、ソラマチにあるよね」
「そうなんですか?」
「ソラマチ行くと大体寄るんだ。青いジンジャーソーダが美味しくて美味しくて」
「タテルさんが言うとすごく飲みたくなります」
「残念、ここにはないね」
「でもドリンクセットにジンジャーエールありますよ」
「かき氷食うのに冷たい飲み物?…まあ試してみるか」
季節のフレーバー・宮崎マンゴーを使用したジンジャーエールは思った以上に可憐。尖りのないジンジャーと華やかなマンゴーの相性が良く、市販のジンジャーエールを紛い物としか思えなくなるほどの出来であった。
「休日のかき氷屋は混みそうだね」
「でも秋になれば気温下がりますから、混雑も緩和されますよ」
「寒い日に食べるかき氷…未知の領域だな」
「寒い時期だからこそ美味しいんですよ。冷たいかき氷食べて温かいお茶飲む、このホワァっとなる感じが良いんです」
「やっぱすごいな、ゴーラーって。まだまだ俺は未熟だよ」
オレンジ生姜のかき氷がやってきた。ジンジャーの入ったミルクは、生姜独特の尖りを上手く丸め込んでいる。オレンジの味は瓶にあるだけ入れ放題のコンフィチュールで補強することができ、皮由来の苦味が生姜の味に馴染んで一体となる。氷の削りも一流で、この店らしい素敵なかき氷に仕上がっていた。
「美味しかった。また来たいけど、休日は混みそう」
「真冬日に来ましょう。生姜だから体ぽかぽかになりますよ」
「そんなこと言っておきながらお腹壊したんでしょマリモ。真冬日にかき氷食うなんてワイルドすぎるよ」
「それは反省しています…」
「まあまあ、そこがマリモらしくて面白いんだよ。気にしないで、これからも純粋に楽しもう。アイツちゃん」
「『アイツ』呼び、やめてください!」
「やっぱダメか〜。忘れた頃だからいいかな、と思ったけど」
「残念でした、99年早いです」
「先は長いな。でさ、俺からひとつ提案なんだけど」
「はい」
「かき氷もいいけどさ、ジェラートって好き?」
「ジェラートはあまり食べないですね」
「ジェラートやアイス、究めてみたくない?」
「…どうなんでしょう?得体が知れなくて」
「ジェラートは素材の味をダイレクトに感じられる素晴らしい食べ物だ」
「そうなんですね。食べてみたくなりました」
こうして2人は今後、かき氷だけでなく様々な氷菓を食べ歩くことにした。頑張れ、タテルとマリモ。『氷の王』『氷の女王』になるその日まで。
(連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラー』へ続く)