連続かき氷小説『アイツはゴーラー』2

不定期連載『アイツはゴーラー』

「暑い…」
パルコから歩くこと10分。途中急な坂があり汗ばむ2人。
「はい、サカノウエカフェに到着!どうですかタテルさん、またかき氷食べたくなってきたでしょ?」
「それほどでもねぇって」
「こんな暑い中歩いてきたのに?」
「マリモちゃんが異常なだけだよ」
「もう!いいから入りますよ」

かき氷の人気店ではあるが、平日の15時で空席がちらほらあった。待たずに入れた2人はまず端末を操作し好きなかき氷を注文する。
「マリモちゃんから頼んでいいよ」
「ありがとうございます!わぁ、メニューがいっぱい…何にしようかな」
期間限定、この機会を逃すと二度とありつけないという商品が多いとのこと。これまで数多のかき氷を食べてきたマリモは、ピスタチオクリームを特に好むという自分なりの傾向をわかっていた。
「じゃあピスタチオチェリーにします」
「俺もそれにする」
「えっ?いいんですか?」
「同じもの食べた方が感想を共有できて思い出に残る。アヤとフレンチ行ったときも、前菜からメインまで同じ料理頼んで楽しかったもん」
「そうなんですね。勉強になります」
「俺もマリモちゃんからかき氷のこと、勉強させてもらうね」

会計も済ませ席につく。
「それにしてもマリモちゃん、何でゴーラーになったの?」
「マナモさんがかき氷好きでいらして、一緒に食べに行ったらすごく美味しかったんです!そこからもうハマっちゃって」
「マナモさんきっかけか」
「タテルさんもマナモさんなんですね」
「どういうこと?」
「『さん』づけで呼ぶんですね。タテルさんの方が1つ上なのに」
「まあね。ほら、マナモさんって風格があるじゃん?『ちゃん』づけだと違和感あるんだよね」
「本人は『ちゃん』づけで呼んでほしい、っていうけど、難しいですよね…」

そんな他愛もない話をしている内にかき氷がやってきた。
「いただきます…えっ、何この氷!すぐ消えていく」
「ホントだ。こんな口溶けいい氷はそうそうないです」百戦錬磨のゴーラー・マリモも驚く削りの妙。
「これならペロッといけちゃうね。ピスタチオの味も濃厚だし、チェリーは…ん?不思議な味だ」
「そんな不思議ですか?」
「フローラルというか何というか…地味に強烈で面白いんだ」

その時両者のかき氷に雪崩が発生した。タテルは中に落とし込むように食べていたため被害はなかったが、マリモは相変わらず派手に崩してしまった。
「まただ…何でこうなるの⁈」
「さすがマリモ。フランス仕込みだね」
「どういうことですか?」
「そのかき氷の食べ方。奥から手前に掬ってるよね」
「言われてみればそうですけど」
「フランス料理のスープの作法だよね」
「なるほど!私そうやって躾けられていました」
「フランスにいた頃の癖が出てるなぁ、って思ってた。かき氷は真ん中を開けて内側に雪崩れさせるのが正解だと思うよ」
「そうですね…」
「でも派手に雪崩れさせるマリモも面白いし可愛いけどね」
「やだぁ、照れますわ」

氷はやがて溶け形がなくなっていたが、ピスタチオの味は薄まらなかった。それだけクリームが濃厚にできているということだ。

「なんかもう1杯食べれそうな気がしてきた。でも怖いな」
「私も流石に3杯目は無理です」
「そりゃそうよね」
「お金がなくなっちゃうから」
「金銭ネックかーい!」
「食べようと思えばいくらでも食べたいです。私の胃、バカなので」
「自分で言ってるし。やっぱ只者じゃないなコイツ」
「『コイツ』とか『アイツ』とか呼ぶの、やめてください」
「ごめんって」

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