連続かき氷小説『アイツはゴーラー』1

不定期連載『アイツはゴーラー』

つなあいの収録終わりに居合わせていたタテルは、メンバーと談笑していた。
「そうだ、アイツに言いたいことがある」
「アイツ?」
「とぼけないでよ。アイツはアイツだろ」
「タテルくん、『アイツ』って呼び名は番組の流れあってこそだから。それ以外の場所ではちゃんと名前で呼んであげて」
「そっか…配慮足らなくてごめんな」

そこへ、『アイツ』ことマリモがやってきた。
「『アイツ』でもいいですよ」
「いやいやマリモちゃん、区別はちゃんとしよう。プライベートまで『アイツ』呼ばわりはさすがに不憫だよ」
「はーい。でタテルさん、私に何か用ですか?」
「かき氷食べたいな、と思って」
「タテルさんもゴーラーなんですか?」
「ゴーラー?箱根登山鉄道の終点?」
「違いますよ。かき氷大好きで、毎日のように食べる人のことですよ。織田信成さんとか村上佳菜子さんとかもその一員です」
「俺はそこまでじゃないな多分。百名店に入るくらい有名な店しか行かないから」
「それは具体的に?」
「松月氷室にひみつ堂、志むら、かんな、北斎茶房。埜庵も行く予定。ノリは違うけどだるま餅菓子店も」
「いや、しっかりゴーラーしてますよ」
「そう?ミーハーすぎるかなって」
「十分ですよ。まあ私は全部行ってますけど」
「マリモちゃんには敵わないよ。後はくろぎくらいしか…」
「くろぎ!ちょうど良かった、行こうとしてました」
「マジ?行ったことなかったんだ」
「ちょっとお高いイメージがあって…」
「俺結構な頻度で通ってる。美味しいから一緒に行こう。全額はムリだけど少しくらいなら出すよ」
「いいんですか⁈ありがとうございます!」

1週間後、上野のパルコ。
「待たせたな!」
「タテルさん遅いです」
「ごめんごめん、天丼食ってたら時間かかっちゃって。じゃあ行こうか」

黒を基調とした大人の佇まいの店。休日には多くの待ちが発生する人気店ではあるが、平日であればおやつタイムでもすんなり入ることができる。本当は中央通り側から入るのが正解だが、パルコ内部にいたタテルは迷うことなく店内を横切り注文口へとマリモを連れて行った。

「何でも好きなの食べな」
「黒蜜きなこにします」
「いいの一番安いので?河内晩柑頼んでもいいんだよ」
「さすがに遠慮しますよ。タテルさんは何食べます?」
「和ぼかど」
「…思いっきりアボカド乗ってる。しかも味噌餡とかチーズクリームとか使ってるのは見たことない」
「くろぎとはそういう店だ」
和のアイアンシェフ・黒木純が手がけるだけある高度な取り合わせ。他の店では真似できない、くろぎならではのかき氷の数々。マリモのように初めて訪れる人は、最もオーソドックスな黒蜜きなこが無難なのかもしれない。

かき氷がやってきた。スッと掬える氷。アボカドの味が濃いクリーム、そして練乳と合わさりさっと溶けていく。外にあるアボカドの果実自体はかき氷に合わなかった。
下にはチーズクリームがたっぷり入っており、ヨーグルトのような、甘酒のようなコクを演出する。味の変化を生み、飽きることなく食べ進められる。
中にはサプライズとして味噌餡の上にアボカドの角切りが鎮座していた。ほじくっていると突如、『雪崩』が発生した。
「うわっ!あぶねぇ、何とか器の中で受け身とってくれた」
一方でマリモは盛大に外側へ雪崩させてしまった。
「もう!なんでいつもこうなるの」
「マリモらしいな。さすが笑いの神に愛されし『アイツ』」
「『アイツ』って言わないで!」
「…ごめん、やっぱ嫌だったか『アイツ』呼びは」

2人の隣にもカップルがいて、女性がみたらしミルクかき氷を頼む一方、男性はアイスコーヒーしか頼んでいなかった。
「うーん、俺には甘すぎる」甘いもの嫌いのその男性は一口食べただけで拒否反応を示した。
「俺は甘いもの食べれる口で良かった」にやけるタテル。
「タテルさんってめっちゃ甘いもの知ってますよね」
「まあねえ」
「ならきっとゴーラーなれますよ」
「なる気はない。あまりかき氷は好きじゃない」
「どうしてですか?」
「溶けて液状になるのが嫌。クリームが浮いちゃって気持ち悪い」
「まああるあるですけど。でもここのは大丈夫なんですね」
クリームとチーズがたっぷり入っていたため、氷が溶けても濃厚な味は保たれていた。ポタージュのように最後まで美味しくいただける。

量が多めだったため、隣の女性はお腹いっぱいになり胸がつかえていた。一方で胃がバカなマリモはへっちゃらだった。
「美味しかった!タテルさん、もう1軒行きましょう」
「本気で⁈俺もう腹パンだよ」
「ゴーラーなら1日2杯は当たり前ですよ」
「だから俺ゴーラーじゃないって…」
「いいから行きましょう!歩いていく内にまた食べたくなりますよ」

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