超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第5章:悪人に正当な罰を与えよう 7話

フランス帰りのカケルは、「アパーランドの皇帝」として問題だらけのこの国に革命を起こそうとする。かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・Écluneをプロパガンダに利用しながら。
*この作品は完全なるフィクションです。過激な話が展開されますが、実在の人物・店・団体とは全く関係ありませんし、著者含め誰かの思想を示すものでもありません。

  

「容態はどうなんだ⁈」
「スピードの出てる自転車に真正面から当たってしまって、脛骨と手首を骨折したみたいで……」
「命は大丈夫か」
「はい。一緒にいたmzkが救急車を呼んで、病院に搬送されました。でも犯人は逃走してて」
「人を痛めつけておいて逃げやがるとは」
「寧ろ捨て台詞吐いてたらしいですね。邪魔なんだよテメェ、って言われたらしいです」
「最早人じゃないな。とっ捕まえてやる」

  

早速病院に向かったカケル。snnは大怪我を負い、暫く入院が必要な状態であった。
「bnjちゃん、カケルさん……」
「大丈夫だった?大変だったね……」

  

涙するsnn、bnj、mzk。
「辛いなこれは。ダンスができなくなってもおかしくない……」
「許せないですよ犯人」
「カケルさんに言われた通り、犯人の写真撮りました。少しブレてしまったんですけど……」
「上出来だよ。焦ってしまいがちな中よく収めた。警察に提供して捕まえて貰おう」
「お願いします、snnちゃんのためにも!」
「ああ。犯人はどっちへ逃げて行った?」
「神社の方です」

  

カケルは、犯人が神社の方へ逃走したことを警察に垂れ込むと突如アパーランドの皇帝モードに移行し、神社とは違う方向に向かう。何となく犯人の線が見えていたようである。
「こういう人種は常時トラブルを起こしている。人を傷つけても何とも思わない、指摘されても御託を並べて反抗する下等生物。実験対象にはうってつけだ」

  

アパーランドのメンバーも連れ出して張り込むこと2日。mzkから聞き出していた、「伏し目がちで黒目の比率が高め、顎が尖っている薄っぺらい顔」という特徴の男が、自転車で職場に乗りつける姿をキャッチした。
「……やっぱり傷を直した跡がある。雑だから目立つね」
「なんでこんな雑にやるんですかね?」
「修理業者に依頼するとその業者から足がつく可能性がある。だから自分で直した方が逃げきれる」
「ありえますねそれ」
「卑怯な野郎だ。如何にも思いやりの無い人相して」

  

帰宅時間を狙ってアタックを試みる。その間カケルは近くにある個人経営のうどん屋で昼食を摂る。店とは思えない構えの建物、外に高齢の男が1人佇んでいたが並んでいる人なのかよくわからない。

  

中を覗くと満席であったため外に出る。男は並んでいたのだ。余計なことを考える内にもう1人男が並んでしまい、カケルは抜かされた格好になった。心の内で先頭の男を罵る。
「並んでるならさ、俺が入ろうとした時点で『並んでますよ』とか言えよ。気の利かねえジジイめ」

  

カケルが並んだ後も列は延び続ける。店主のワンオペであり提供が遅く、カウンター8席のみの店内は夫婦や女性2人組で埋まっていて食べる速度が上がらない。回転の悪さに苛立つカケル。襲撃の計画を詰めようとするが、気が立って仕方ない。

  

15分するとちらほら席が空き始め、先ず先頭の2名が席に案内された。本当ならここでカケルは入店できたはずであり、唇を噛み締めながら半身を店内に入れ待つ。
3分くらいしてまた2席空きカケルは入店、後ろに並んでいた夫婦の夫の方だけが続けて入ってきた。一緒じゃないのに入るのか、せめてレディファーストだろ、などと心の中で文句が止まないカケル。前に入った人の注文に食いかかるように、きつねとたぬきの「まじり」をオーダーした。

  

店内には無造作に積まれた小麦粉の袋や鰮の箱、古びた雑誌や扇風機などがあって、所謂「きたなトラン」に分類され得る。味がある、と捉えれば魅力的に思えるが、潔癖には厳しいのかもしれない。

  

間も無くして残りの2組も退店し総入れ替えが完了した。カケルの隣に来た男も無事妻と隣り合わせになり、この夫婦は常連だったようで提供タイミングも調整された模様である。

  

カケルへのうどんの提供は、前の男と然程変わらぬタイミングであった。西部特有のペラっとした出汁には少し甘みが載っていた。麺は太さがまちまちであり、太いものは噛み応えがあるが、全体的にコシは強くない。
具材は揚げ玉がサクサクでコクもあり良い。お揚げは甘さが少し汁と喧嘩する。小松菜はえぐみがあるが仕方ないものである。

  

「具材たっぷりで麺にも変化をつけて700円、安いよな。ワンオペと年季入ってるところさえ目を瞑れば良い店だ」

  

満足して店を後にしたカケルは張り込み隊に再合流するも、定時を過ぎても犯人が出てくる気配が無い。
「残業してるんですかね」
「だろうな。あんな当て逃げ野郎の頭じゃ、効率良く仕事はできないね」

  

隊員の1人がコンビニへ羊羹を買い出しに出かけた3分後、ホシが現れて自転車で帰宅を始めた。アパーランドは追跡し、自宅近くの人気の無い路地に入るとホシを追い越して暫くして停車する。ホシが再び追いつこうとした所で隊員が車を降り、突っ込んできたホシの自転車に態とぶつかった。
「何してんだよ、後ろ見て出ろよ!」
「見ましたよ。見た上で当たってみました」
「馬鹿かテメェ。早く帰らせろ」

  

そこへ他の同乗者も飛び出し、ホシを車に押し込んだ。

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