かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループが、フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。実在の人物・店・団体、そして著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。
*いじめの描写がありますが、全くの作り話であり、筆者自身および誰かの経験ではありません。
翌日、大々的に流す了承は得られていないが、カケルは教育委員会の関係者・シーナにBのいじめ映像を提出する。
「これは酷いですね」
「これを観てもあの石頭達は、いじめを認めないものなんですかね?」
「石頭ですか。鋭いですね。実際自殺したAくんも、リンチの映像がうちらの元に提出されたんだよ。でも揉み消されてる」
「やっぱり…」
「Aくんの学校の校長が教育長に何か渡してるところ、見ちゃったんだよね」
「賄賂ですか?最低だな。やってることヤクザと同じですよ」
「全くその通りです」
「ちなみに何渡してたんですか?金ですか?」
「お金ではないですね。プレッツェルだったかな?この辺で有名な店があって、その袋差し出してたので」
「それはそれで食べ物に失礼だな」
「教育長に頼み事をする際はこういう手土産を持っていく。金銭の授受はさすがに問題になるから食べ物で釣る、それがこの組織内での慣わしとなっています」
「嘆かわしい。正気とは思えないな、こんな隠蔽体質」
「Aのいじめ映像、探せば残っていると思います。それを会見で流してしまいましょう」
「やれるんですか、シーナさん?」
「ええ。私は教育委員会から除名される覚悟を決めてます」
「それは心強い」
「もしそうなったら、カケルさんの元でお世話になっても良いですか」
「勿論だ。貴女からは国を動かす強い意志を感じる。是非仲間に加わってくれ」
「ありがとうございます!」
「そうなるとこんなお願いはどうかな?コソコソコソ…」
「ハハハ。面白いですねそのアイデア。お灸を据える手段としては最高です」
「隠密に、よろしくお願いします」

記者会見当日。カケルとmmは事務所でプレッツェルを食べながら会見開始を待つ。
「程よい塩気、一瞬硬いけどすぐ解れるこの感覚。懐かしい」
「プレッツェルってドイツのパンでしたっけ?」
「そうそう。小旅行で3回くらい訪れたかな、でもあまり記憶ない」
「私ヨーロッパだとドイツ派です。二外もドイツ語とりました」
「二外?」
「大学で学ぶ、英語以外の外国語です」
「大学からやるなんて遅いね、中学からやるぞフランスは」
「何語専攻したんですか?」
「イタリア語」
「お隣じゃないですか。あっ!林檎こぼしちゃった…」

「あらら。確かに食べづらそうなパンだなそれ」
「砂糖しみしみの揚げパンで、甘ったるくなくて美味しいですよ」
「中に薄いりんごが挟まってるのか。量が少ない割にこぼれやすい…あっ!」
「カケルさんもこぼしてる!」

「ラズベリーソースが暴発するんだよ。ったく、男の大事なところにこぼれたぜ」
「アハハ。恥ずかしいですねそれ」
「これで美味いっつうのが腹立つな。不味かったらギッタギタのボッコボコにしてやろうと思ったのに」
「それ、いじめですよ」
「生物じゃないからいいんだ。食べづらい食べ物は嫌いだよ。あ、記者会見が始まる」
会見は第三者委員会の調査結果報告から始まった。それによると、いじめと自殺の因果関係は認められなかったと云う。カケルが想定していた通りの無慈悲な結末である。
「俺は知ってるからな…」
「どういうことですか?」
「第三者委員会のメンバー、学校側の肩を持つ面々ばかりだってこと」
「それは最悪ですね」
「まあ暫く胸糞展開が続くけど我慢しよう」
自殺された生徒と加害者とされる生徒さん達、仲良かったと聞いてますけどね。ちょっと愛情表現が強かっただけでしょう。彼はもうちょっと歩み寄れば良かった。これくらいで自殺しちゃうなんて、心が弱いんですよ。
校長の無慈悲な発言に紛糾する会見場。暴力を容認し遺族を逆撫でする発言に、記者の怒りは当然治らない。
「じゃあアンタが受けてみろよその愛情表現とやらを」
「受けてみろ、と言われても。私はあの子達とは深い仲ではございませんので」
「殴られて蹴られて、終いにはカッターで切りつけられてるんですよ?犯罪行為じゃないですか、それを愛情表現だなんて狂ってやがる!」
「カッターで切りつけた事実は無い、って説明しましたよね?」
「被害者が嘘をついているとでも言うのかよ!」
「嘘とまでは言いませんけど、本当とも言えないじゃないですか。罪の無い人を罰する方が問題ですよ?疑わしきは罰せず、習いませんでした?」
「だとしてもあまりにも他人事すぎる!人の心ねえのかよ!」
「うるさいね君たち!単なる悪ふざけなんだよ!…おい待て、何でスクリーンが降りてくるんだ」
誰もいない別室で会見をウォッチしていたシーナが遠隔操作をし、Aの生々しいいじめの映像が流れる。校長らはすぐスクリーンに張り付き映像を見せまいとしたが、記者からは怒号が飛び交った。
「さっきの動画、どこがいじめじゃないと言うんですか!」
「逃れられないぞ!ちゃんと説明しろ!」
「この映像が真実だと誰が言える?捏造の可能性もあるだろ」
「ここに来て未だ言う?被害者の方が浮かばれない」
「死人に口なし。加害者の未来の方が大事…うわあ!」
壇上にいた教育長・校長・委員全員の椅子に電流が流れた。事前にシーナが装置を仕込み、「加害者の未来が大事」という趣旨の発言をしたらスイッチを押す、カケル発案の悪戯は大成功であった。
「誰だ、こんな悪戯仕組んだのは。お前か?」
「知りませんよ。加害者の未来なんてふざけたこと言うからバチが当たったんじゃないですか?」
「加害者の未来は大事だ…アァァ!」
今度は罰ゲームの範疇を超えた20mAの電流が流れ、老齢の教育長と校長は気絶した。