超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第4章:いじめをノックアウトしよう 3話(天音/吉祥寺)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

正装をしたカケルとmmが吉祥寺の駅に降り立った。
「カケルさん、何だか緊張しますね」
「俺もだ。メンバーを直接作戦に巻き込むのは初めてだからな。てかmm、気をつけろ。俺の左に立つな」
「すみません、礼儀作法なっていなくて」
「何の話?」
「左の方が上座ですよね、本当に失礼いたしました」
「そんなめんどくさいしきたり、この俺が押し付ける訳ないだろ。左手にメリケンサックはめているからだよ」
「何もしていないように見えますが…」
「特注の肌色メリケンサックだ。右にごついアクセサリーしておいて、本当に危ないのは左というまやかし」
「怖いですよ…」
「そうでもしないと危険だこの街は。あ、ここが鯛焼き屋か。腹拵えしよう」

  

傘屋の傍の細い路地から延びる行列は、鯛焼きの名店「天音」のもの。じっくり焼くため行列の回転は多少遅めである。団子も売っていて、中には団子だけ買う猛者もいる。

  

名物の羽根つき鯛焼きを、王道の粒餡で。勿論焼き立てで頬張る。クロワッサン鯛焼きとは違い分厚い羽根をしているが、軽くほぐれる。
あんこは通常のものより赤みが抑えられていて、砂糖の甘さが少し目立っていた。

  

「mmはカスタードか。あんこ苦手?」
「苦手ではないですけど、カスタードが気になって。数量限定、という言葉にも惹かれてしまいますね」
「美味しい?」
「美味しいです。重たくなくて、夏でも食べやすいと思います」

  

近くにある小ざさで最中を購入し、商店街を突き進む。休日の吉祥寺は人で溢れていて、老若男女が思い思いの方向に歩いているからどう足掻いても人にぶつかってしまう。イライラが募るカケルの左の拳が、横に拡がって歩く連中の1人に命中した。
「危ねぇだろ、前見て歩け。しかもメリケンサックみたいなアクセサリーして」カケルの右手に視線をやる男。
「これプラスチック製なんですけど。人違いじゃないですか、あなたたちこそちゃんと前見て歩きなさい」
「…」

  

中心街を何とか通過し、メリケンサックを外すカケル。東急の裏手まで来てしまえば喧騒とは無縁の住宅街である。まず訪れたのは、いじめにより自殺に追い込まれた生徒の家庭。線香をあげて弔意を示し、生徒の両親から話を聴く。
「言える範囲で構いません。苦しくなったら止めてください」

  

息子はとても正義感の強い人でした。ある日、廊下で騒いでいたクラスメイトの集団に対し注意をしたら、うるせぇ黙れと言われました。先生にそれを報告したら、次の日以降その集団の生徒から『裏切り者』『キモい』『家族もろとも○ね』などと執拗に暴言を受けました。次第にそれは暴力へと発展し、椅子で殴打されたり鋏で切りつけられたりロッカーに閉じ込められたり、しまいには多くの生徒が見ている前で殴られ蹴られ、体力も気力も果て、そのまま息子は自殺しました。
「目撃者は多くいます。にも関わらず学校も教育委員会もいじめの存在を認めようとしないのです」
「まあアイツらは保身しか考えてませんから。警察には相談しました?」
「警察としては何もできないと言われました。民事不介入とか言って」
「やっぱりか…どいつもこいつも腐ってる」
「カケルさん、どうにか息子の無念を晴らしてください!」
「あらゆる手を尽くして、息子さんを傷つける全ての奴らを成敗します」

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です