超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第4章:いじめをノックアウトしよう 2話(焼肉ジャンボはなれ/本郷三丁目)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

カケルの思い描く「いじめ撲滅作戦」は、多感な時期にある多くの生徒に影響を及ぼすことが予想される。mmの協力は得たいが、ただ頼むだけでは賛同してもらえない可能性がある。そこでカケルは、2ヶ月弱前から押さえていた都内トップクラスの焼肉店「焼肉ジャンボはなれ」にmmを連れ出すことにした。

  

「お疲れ様ですカケルさん」
「今日は来てくれてありがとう。今から行くところは、食べログによれば日本全国で5本の指に入る焼肉店だ。腹ちゃんと空かせてきたか?」
「もちろんですとも!お昼ご飯サラダだけにしました」
「良い心意気だ。さすが俺の手下」

  

大江戸線本郷三丁目駅5番出口から裏道を辿ること3分程で店に到着した。すぐ近くに本郷店の本丸もあり、メニューもそれほど変わらないようだがはなれの方が評価が高いのは何故だろう。

  

「上京してから美味しい焼肉、食べに行ったことある?」
「無いですね。故郷は黒豚が有名なので、豚しゃぶならよく食べます」
「そういえばそうだったな。東京の焼肉は洒落てる。臭いとか気にしなくていいからな」

  

まずはあっさりしたものから食べよう、ということでハツ。店員さんが焼く秒数を言ってくれるので焼き過ぎは防ぎやすい。見た目からわかるように何の汚れもない。早速この店のレヴェルの高さを思い知る。

  

黒毛和牛のタン。ほのかにする脂の甘みが堪らない。田舎育ちのmmは恍惚の表情を浮かべながら味わっていた。
「可愛い。美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ」
「これぞ和牛焼肉、って感じですね。洗練されていて最高です」
「ありがとう。それで一つ相談なんだけどさ」
「何でしょう?」
「武蔵野市のいじめ自殺事件、知ってる?」
「スマホのニュースアプリで流れてきていますね。あれは本当に胸が痛いです」
「担任の先生も校長もいじめを認めようとしない。お約束の展開だよね。何がしたいんだ、って思う」
「自らの保身しか考えていないんですよ」
「困ったもんだ…」

  

そこへジャンボの名物・野原焼が登場した。一枚肉を店員さんがこなれた手つきでたたんでひらいてして焼く。溶き卵に潜らせ口に入れると溢れ出す脂の淑気。高級肉を食っている感覚をストレートに覚え、気分が高揚する。
「だからな、罪を認めず隠蔽するような奴には、出るとこ出てやろうと思う」
「もしかして介入するつもりですか?」
「勿論さ」
「あの…たしかに私はいじめ被害者の経験あるから何とかしたい気持ちはあります。でも外からの圧力が被害者のためになるかは疑問です」
「そう思うのは無理ない。でもそれくらいしないと死に追い遣られる人もいるんだ」
「そりゃそうですけど、怖いですよ…」
「いじめを隠す姿勢をおかしいと思っている人の方が多数派だ。でもみんな安全な場所からしか叩かないし、そのうち記憶から消しやがる。結局どうでもいいんだろうな。俺はそれが許せない。やるなら徹底的にやる。それが俺達のやり方だろ」

  

焼肉屋のサラダは問答無用で美味い。少し甘めの味付けがクセになる。

  

サガリもまた最高の脂。脂が多くを占めているようにみえるが肉らしさもちゃんとある。
「カケルさんの熱意には負けますね。具体的に何やるんですか?」
「まずは校長と教師を尾行だな。裏でコソコソやってる可能性がある」
「はい」
「首根っこ掴むチャンスが出たら一気に畳み掛ける。悪質な場合はタキヤマプリズンにぶち込むことすら考えているから」
「例の絶○収容所ですね。ああ怖い…」
「被害者の無念を晴らすため、同じ思いをさせてやる」

  

予約時に頼んでおいた牛ヒレカツ煮。卵とじの技術は専門店に及ばず、冷めやすいため脂の重さも目立つ。これはわざわざキープする程では無かったと思うカケル。
「それと同時に、現在進行中のいじめを見つけて成敗したいと思ってる。同じ武蔵野市内の中学校でいじめを受けているという生徒さんから連絡をもらった。良識ある関係者に頼み込み隠しカメラをつけてもらう。いじめの決定的証拠を掴んだらYouTubeに拡散だ」
「影響力凄すぎません?」
「それくらいしないとダメだ。そしてmmには、いじめ被害者の心のケアをしてほしいからだ」
「なるほど…」
「経験者が一番苦しみを分かっている。そして乗り越えた経験を話せば被害者は勇気を持てる。国民的アイドルが語れば尚更だ」
「…」
「やり方が過激なのは分かっている。でもこの1件が、いじめに苦しむ人々を救済するきっかけになれば良いと思っている。いじめを受けていた過去のmmも救われる。頼む、協力してくれ」
「…わかりました、誠心誠意やらせていただきます」
「ありがとう!」

  

〆は冷麺用の麺を使った冷やし担々麺。胡麻の甘みが心地良く、そぼろにも抜かりが無い。

  

「2人で4万超えたか…」
「でもとても美味しかったです。これが東京の焼肉なんですね」
「東京でもこんなに綺麗な焼肉屋は少ないよ。また来たいところだけど、それはこの世が平和になってからだね」
「平和に寄与できるよう、私も精一杯協力します」
「長い闘いになるかもだけどよろしくな」

  

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