超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第3章:政治を国民の手に取り戻そう 最終話(すぎ田/蔵前)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

「よぉし、新シングルの表題曲ができたぞ。今回は動と静がはっきりした抒情あふれる曲だ。静のAメロと動のBメロ、2番ではその順番が入れ替わるのも画期的な試みだ」

  

今日も沢山働いてこれっぽっちの給料
値引きシール貼られた惣菜を水道水で流し込む
月に一度の贅沢はビッグマックが限度
老後2000万必要なんて言われても何をすればいい

  

人の上に立つ者が道楽に溺れている
泡銭で料亭スナック酒盛りベロベロベー
民からむしり取った金で女体愛でるパーティー
明くる日の職務では居眠り内職…No Way!

  

俺たちの自由はどこに逝ってしまったのだろう
自惚れの強すぎる爺と婆による実質的独裁
俺たちの訴えはどうやってもお上に届かない
ならばいっそ起こしてしまえ Revolution

  

疑心暗鬼の民は見えない相手と殴り合う
罵詈雑言の荒風が命の炎を揺さぶる
何もかもが満たされれば 心乱すこともない
それもこれも政治のせいだ…No Way!

  

世間の目を恐れ 娯楽は世から消え始めた
朝から晩まで働いて 気の休まる時も無い
そんな世の中じゃ 心も体も病んでしまう
貧しさの絶望の中で死んでいく民よ…

  

俺たちの叫びなんか聞いてくれない 上に立つ者は
私利私欲に塗れて 他人の苦しみを知る由も無い
自由の無い世界に生まれてきたつもりは無い
だから俺たちは闘うんだ Revolution 

  

俺たちの自由はどこに逝ってしまったのだろう
自惚れの強すぎる爺と婆による実質的独裁
自由の無い世界に生まれてきたつもりは無い
ならばいっそ起こしてしまえ Revolution

  

「ボーカルはsikとdnzb、パフォーマーのセンターはyki。個人的には攻めた布陣だと思ってる。だが個々人の人気がどうのこうの言う時代は終わった。ykiはダンスも上手いし、強さと儚さを演じ分ける力もある。自信持ってやれ」

  

選抜メンバー発表直後、カケルはykiを連れ出して蔵前に向かった。
「恒例の儀式だ。パフォーマーのセンターになった者は俺ととんかつを食べに行く」
「もしかして験担ぎですか?」
「正解だ」
「カケルさんにしては安直ですね」
「何を言う。気持ちが重要なんだよ。とんかつ食べれば勝てる、と自分の脳に信じ込ませる。そうすれば勝てるんだ」
「結局納得してしまう…」

  

とんかつの名店、すぎ田。とんかつ百名店に加え、ミシュランビブグルマンの称号を何度も獲得している人気店。それでも猛暑の平日においては待たずに入ることができる。

  

「ロースカツ2500円、しかもご飯と豚汁は別料金で合わせたら3000円になります…」
「それがどうした?」
「強気の価格設定ですね」
「そう?これくらい当たり前だろ」
「フランス生活の感覚、抜けていないんじゃないですか?」
「この国が安すぎるだけだよ。食の質はパリに負けず劣らずで世界最強クラスなのに」
「安くて質の良いものを食べられる、良いことじゃないですか」
「この国で暮らしていればそう思うのも無理はない。でも良い物を安売りするのは健全ではないね」
「この国の人は少ないお金をやりくりして暮らしていますからね」
「だから給料上げればいいのに。ふんぞり返ってるだけで何もしない奴が高給取り、というのが許せない」
「そうですよね…」
「政治家の給料とかあんな要らないだろ。まあそれを今回歌にしたんだけどね」

  

ロースカツがやってきた。ビブグルマンという称号を得ているが、そこに派手さは無い。だが確かに美味しい。豚肉自体の味よりも、下味の付け方が良いのだと思う。
卓上にはリーペリンという元祖ウスターソースがあるが、これをかけて特別何か、ということは無い。

  

ご飯は頼まなかった2人。それでも豚汁は注文し、味噌のコクが濃くて美味しくいただいた。

  

「まあ込み込み2800円くらいが丁度良いかな」
「それって少しけなしてます?」
「3000円超えると印象はやはり、ね…」
「まあそうですよね。でもありがとうございます、これで新シングルも頑張れそうです!」

  

新曲『Revolution』は多くの人々に支持され、不祥事相次ぐ政界に対する不満も高揚していった。一方で警察は「アパーランドの皇帝」の正体を探ろうとするが、どうしても掴めないでいた。
「これまでの事件を洗い出してみよう。永田町男性連れ去り事件、性暴力犯連れ去り事件、ヤホーサイバー攻撃、日刊ヘンダイ毒ガス襲撃事件、宝町劇団火炎瓶放火事件…」
「段々と過激になっている。被害者も多い。早く息の根を止めないとアレの二の舞になる」
「世界からも恐怖の目が向けられている。犯人確保に向け全力で動くんだ」
「はい!」

  

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