超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第3章:政治を国民の手に取り戻そう 6話(ラ・グリシーヌ/池尻大橋)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

新曲の歌詞を考えていたカケルは、冷蔵庫からケーキを取り出した。傍にいた檜坂メンバーのbpgが好奇の目で見てくる。
「お尻…みたいですね」
「これ?ああ、桃のケーキだよ。言われれば確かにパ○ティ履いたお尻だね。We wear short shortsってやつか」
「ちょっとよくわからないです。カケルさんそういう趣味もあるんですね」
「当たり前じゃないか。フランスの男だぞ俺は」
「どういうことですかそれ?」

  

池尻大橋の目黒川沿いにあるパティスリー「ラ・グリシーヌ」の、桃を丸々1個使った名物ケーキ。名を『夏の思ひ出』という。真夏に食べる桃は瑞々しさが光って良い。だが1500円という値段設定を考えると、桃の更なる魅力を引き出す技巧を期待してしまう。

  

「はっ⁈俺の小遊三師匠が歌さんに『抱いてください』言ってたのが問題だと⁈」
スマホのニュースアプリからの通知を見たカケルは憤慨した。
「小遊三師匠は皆のものですけど」
「そこツッコむところじゃない。俺この場面観たけどさ、歌さん最後の大喜利の最後の回答よ。エロいしエモいし最高じゃん。どこをどう取ったらこういう思想になるんだ」
「たしかに行き過ぎた批判だと思います。信頼関係あるからこそ言えるわけですし」
「そうそう。面白いことが何処の馬の骨かもわからんど素人により規制される。そしてそういった奴らを煽てるメディアがいる。ああ嘆かわしい!いずれこの桃のケーキも販売できなくなるんだろうな!」

  

「アパーランドの皇帝」の事務所。カケルはシナジーを集め問いかける。
「最近のこの国は気を遣ってばかりで面白いことさえできない。何故こんなことになってしまった」
「やっぱSNSの普及じゃないですか。誰もが匿名で見境なく物言えるようになって、言っちゃいけないことを平気で言えるようになった」
「『嫌なら見るな』って、岡村さんが言ったら叩かれるけど、SNSの御意見番気取りは平気で免罪符にしてますよね」
「何の取り柄も無い奴が何威張ってるんだ⁈」
「世の中への不満もありますね。一向に上がらない給料、社員をこき使う経営者、民意を逆撫でする政治家の振る舞い…」
「ああもう聞いてるだけで地獄だな!」

  

「みんなありがとう」場を纏めるカケル。「となると解決策は俺が国のトップになることだ」
「そうなりますね」
「そろそろ本格的に作戦を練らねば。どうすれば国を操れるか」
「選挙に出ても誰も票を入れてくれない。そうなるとクーデターしか」
「クーデターにもやり方がある。急いでやっても失敗するだけだ」
「そりゃそうですよね」
「市民が俺らを信頼してくれない限り勝ち目は無い。そのためには俺らが社会の諸問題に切り込むしかない。法律がどうとか関係ない」
「そうですよね。納得できない法律たくさんあります」
「だろ。何が検察だ、何が弁護士だ、何が裁判官だ。そいつらが人々の悩みを解決できているか?本当に悩みを解決するなら、俺らは超法規的措置も辞さない。そこで信頼を勝ち取り、俺らの価値観を非常識から常識にしてしまえば良い。君たちシナジーにはその手伝いをしてもらうからな」
「はい!」

  

本音ベースで意見を交わし満悦のカケルは檜坂よ事務所に戻り引き続きケーキを楽しむ。シュークリームは外側がメレンゲとナッツでザクザクしている。クリームのキレがもっとあればトップクラスの美味しさである。

  

シュー生地を活かしたこちらのケーキも同じくザクザク食感を楽しみ、加えてキャラメリゼの食感、そしてオレンジの爽やかさとラム酒のキレで複雑な味わいを出せている。

  

「ご機嫌ですねカケルさん」メンバーのykiが話しかける。
「ああ。シナジー達と現代に蔓延る停滞感の原因を話し合っていたら、良い歌詞が降りてきた。次の楽曲はスマッシュヒット間違い無しだ」
「心強いです。期待に応えられるよう頑張ります」
「カップリング曲の歌詞はメンバーから募る。コンペ形式で出来を競ってもらう」
「燃えますね」
「皆に頑張ってもらうためマカロンを買ってきた。左はラムレーズン、右はバニラ。食べてみなさい」
「いただきます…あ、外側結構ザクザクしてますね」
「だろ。中もバタークリームのような硬さのガナッシュにフレーバーがしっかり載っている。贅沢だよね」
「ありがとうございます。メンバーも喜びますね」
「このパティスリーと出逢えたひと夏の経験、色褪せないで欲しいな。ああだこうだうるせぇ世間の中で汚されないように、消されないように。俺らには芸術を守る使命がある。その想いを皆にもわかってもらいたい」
頼もしく頷くyki。
「いないいなぁい、アランドロン」
「…急にどうしました?」
「やりたくなっただけだ」

  

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