超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第3章:政治を国民の手に取り戻そう 4話(近江屋洋菓子店/淡路町)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。フランス帰りの革命を目論む男・カケル(21)に招かれ今再びこの国を変えようと動き出す。カケル率いる「アパーランドの皇帝」の一員(シナジー)として秘密裏で国を動かす。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

とある日の檜坂の事務所。3期生全員を集めたカケルは改めて行動指針を示す。
「加入前に抱いていた檜坂の像とギャップがありすぎて戸惑っていることは重々承知だ。だから話を始める前に、もし抜けたければ今すぐ抜けてもらいたい。これから話すことは機密事項だからな、聞いてしまったらもう後戻りはできないよ。さあ、覚悟を決めてもらおうか」

  

11人は誰もその場を立ち去らない。
「ありがとう。君達は平和のために身を捧げることのできる立派な人間だ。俺が最大限守ってあげる。安心して活動にあたれ。よし、じゃあ今から俺の考えを話そう」

  

この国はつまらない。誰もが他人の顔色を窺い、自分の伝えたいことを抑え込む。人は皆面白い個性を持っているはずなのに、自分を出したら叩かれるから、それらを封じ込められつまらない人として生きている。凡人でいることが是だ、出る杭はどんどん打とう、というつまらない全体主義の風潮に支配されている。
でもつまらないことって、嫌なことだよな。面白いこと沢山やりたいよな。やればいいんだよ。皆が疑心暗鬼になるからつまらなさが加速する。皆でやれば怖いことはない。

  

「カケルさんの言葉、めっちゃわかります。私達も周りを気にしすぎて嫌になること多々ありましたし」
「自分を押し殺してばかりじゃ生まれてきた意味ないもんな。せっかく自由に生きる権利が憲法によって保証されているのに、国民はその自由を無くすことをお望みのようで」

  

自由を縛ろうとする不届者は懲らしめたいと思います。SNSで顔も出さず悪口を投げる人外、自由を脅かすエセ愛国者、少数のヘイトを祭り上げて分断を煽り金を稼ぐマスコミ、これらがつまらない全体主義の大元です。だから規制されなければならない。

  

激しくなる口調に少し顔を歪めるメンバー達。その様子を見計らったカケルは冷蔵庫に入れておいたケーキを取り出す。
「近江屋洋菓子店のタルトだ。創業140年になる老舗なんだってな。iPhoneの予測変換で出てくるくらいだから相当有名なんだな」

  

まずはレモンタルト。レモンの酸味がたしかにあるぶん、どうしても金属臭さが出てしまう。これはレモンタルト自体が持つ問題点なので、この店がどうこうという話ではないのだが。

  

「この前テレビで昭和を懐かしむ特番やってたじゃん」
昭和って確かに野蛮なこと、理不尽なことが多かったよな。科学的根拠のないことを押し付けられたり、非効率的なことに何の疑問も持たなかったり。でもさ、規制が緩かった分面白いことできた。考えなくていいことを考えなくてよかった。

  

900円となかなかいい値段のするマスカットタルト。だが1粒1粒がかなり大きく、ゼリー寄せにされているのも相まってかマスカットの爽やかな甘さも十分ある。タルト生地はアーモンドの味が色濃く、一見清純派マスカットと喧嘩しそうであるが不思議と良い相性になっている。メゾンジブレーのような洗練されたタルトに負けない、老舗の矜持を感じた。

  

男はやっぱお色気番組とか観たいじゃん。オールナイトフジとか11PMとかトゥナイトとか、俺だって観たい。嫌がる人もいるけど、求めている人と望んで供給している人がいる以上個人の勝手な思想を押し付けないでほしい。
過去が100%良かった、いや現代が100%正義。何故二元論しか認めない?白か黒で答えられないものばかりのこの世において、極端な方向に進むのは逃げだと思うんだ。近江屋の菓子のように、過去・現代それぞれの良い点を認め取り入れれば無用な争いは無くなる。

  

美味しい菓子に手懐けられ、3期生達は妙に納得してしまう。
「素晴らしい考え方だと思います!」
「皆がモヤモヤしていたことを言葉にして下さって、頼もしいです」
「ひとりひとりが本質を見極め、意見を持ちつつも他者を尊重できる社会にしたい。ただ現在社会を司っている奴らが何も役に立つことしないんだよな。汚職塗れの与党に、野党は文句しか言えない。選挙やっても地位と金と名誉だけが取り柄の無能に人気が集まるだけ。じゃあこの国を変えるにはどうすればいい?クーデターだよ」

  

賢い人の多い3期生達は「クーデター」という単語に怖気付いた。
「く、クーデターって、えっ?」
「まだ聞いてなかったのか。力で変えるしかないんだよ」
「カケルさん、平和を求めるのに内乱起こすんですか⁈」
「ああ。フランスなんて自由を求めて血を捧げてきた。この国もこれくらいやらないと変わらない」
「いや…」
「その先に待つのは自分が自分らしくあれる理想郷だ。そこまでの道のりは辛く苦しいけど、堪えれば幸せへの解放が待ってる」

  

さすがのかしこメンバーも言い返すことができないでいる。
「この前『同じ店には二度と行かない』って言ったのは、下手に俺らのこと覚えられて足跡つけられたくないからだ。気にしすぎ、って思われるかもしれないが機密事項がバレたら俺らは終わる」
「気をつけます」
「ようこそ、アパーランドへ」

  

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