超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第2章:言論の自由を健全化しよう 6話(中勢以/茗荷谷)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。同じく革命を目論んでいるフランス帰りの男・カケル(21)に招かれ、今再びこの国を変えようと動き出す。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

速報です。元アイドルでタレントの○○さんが都内の自宅で首を吊って亡くなっているのが発見されました。自殺を図ったと見られます。

  

「昨日の○○さんのニュース、見た?」
「見た見た。あれだけ叩かれていたら参っちゃうよね」
「根拠ないのに批判されてたから、可哀想すぎる…」
○○と同業の檜坂46メンバーにとっても他人事ではないこの事件。カケルも黙っている訳が無かった。
「SNSでの誹謗中傷が止まらない。ヤホーを潰したせいで余計にSE○などにクソが流れてしまった」
「何で無くならないんでしょうね」
「人生が充実してないんだろうな。それくらいそいつらは脳が足りてないんだ」
「小学生みたいな屁理屈の応酬してますもんね」
「そうなんだよ。でもっとタチが悪いのが、そいつらの怒りを掻き立てる煽り記事を書くメディアだ」
「確かに、『△△に批判の声多数』とかいうタイトルの記事多く見かけます」
「私たちのグループもよく槍玉に挙げられますよね」
「俺はけしからんと思ってる。だいたい『批判の声』なんて存在するのか?」
「それ私も疑問に思ってました」
「筆者の勝手なヘイトの押し付けにしか思えない。よし決めた、明日出版社を襲撃しよう」
「えっ⁈」
「たけしさんじゃないんですから。捕まりますよ」
「物申すならコソコソ愚痴っても駄目だ。実力行使する勇気が無ければ文句言う資格ない」
「…」
「安心しろ。日刊ヘンダイから逃げてきた記者をシナジーにした。内部事情はよくわかってる」
「それは強いかもしれませんが…」
「攻撃手段は消化器と傘…だと古典的すぎるな。ひっそりと毒を撒こう」

  

翌日、カケルと元記者はヘンダイの本社がある音羽に出向く。腹拵えとして肉を食べたいと思った2人は、小石川にある中勢以でランチする。開店直後で空いており、飛び入りでも問題ないことが殆どである。巨大金庫のように立派な扉を開けた先に席がある。肉に合うビールは暑い日の喉を強い力で潤しにかかる。

「君は勇気あるね。よく逃げてきた」
「僕が抱いていたあるべき姿と全く違かったので」
「だよな。立派なジャーナリストになりたかったのに、やらされたのはヘイトのかき集めだもんな」
「あれ本当に嫌になります。△△って奴ウザい、とかいう意見目にするのマジで心削られる」
「しかもああいう類のアンケート、母数少なすぎるもんね」
「500は少ないですね。3000は欲しいです」
「しかも500のうち大半の回答は『嫌いな人なんていない』なんだろ」
「そうです。実際に具体名出して投票しているのは200くらい、その人達は複数回答してますね」
「ごく少数のろくでなし専属ヘイターを祭り上げ大勢の意見のように見せかける。やってること最低ですね」

  

セットのローストビーフサラダ。新鮮で力強い葉物にドレッシングがよく絡み、ローストビーフの肉感も正しくあって侮れない存在である。
「××さんの事件、絶対ヘンダイに責任あると思うんです」
「そうだな。○○ちゃんへのヘイト煽るような記事書いてたの、ヘンダイが多かった」
「根拠ないのにそういうの書くのは良くないんじゃないか、と意見したら編集長が怒鳴るんです」
「人間じゃないね」
「他の記者達も編集長にヘコヘコしてばかり。僕が抱いていた理想とはとてもかけ離れている。ジャーナリズムの欠片もありません」
「こんなのに報道の自由を与えてはならぬ。ありがとう、これで俺の心により火がついたよ」

  

そこへ神戸ビーフハンバーグが到着した。肉感が半減しがちなハンバーグという料理でありながら、粗挽きにしてあるので赤身の肉質を噛み締められるようになっている。ものすごく美味しいという訳ではないが、今度はステーキコースを楽しみたいと思える、次に繋げられるランチセットである。

  

「じゃあ今から作戦を決行する。使うのはこの小型ロボットだな。遠隔で操作しオフィスまで運ぶ。ここにある赤いボタンを押せば毒ガスが放出され、ビル内の人を一網打尽できる」
「はい」
「操作に関しては何度も練習した。ただ予期せぬハプニングも有り得るから油断は禁物だな」

  

本社裏手の小さな公園にロボットを置き、離れた場所から操作を始める。昼休憩がもうすぐ終わるくらいの時間だったため人通りが多く、明らかに異質な動くロボットは人々の目を引いた。しかし予測不能な人々の動きを上手く躱し、オフィスへ入っていく人の背後からロボットを侵入させることに成功した。
「あくまでも標的は日刊ヘンダイだからな、関係ない部署をなるべく侵さないようにしたい。ただ誰か妨害してくるようなら構わずぶっ放してもいいかな」
すると2階に向かうエレベーターの中で何者かがロボットを踏んだ。これにより毒ガスがエレベーター内、そして扉が開いた先の2階フロアに充満する。
「ちょっと要らぬ犠牲が生じたな。でもいいや、これにてミッションクリア」

  

速報です。東京都文京区にある××社のオフィスにて多数の人が倒れているとのことです。異臭がするとのことで、毒ガスが撒かれた可能性があります。

  

カケルの狙い通り、編集長含め日刊ヘンダイの社員半数以上が命を失った。サリン事件を思い起こさせる大量殺人、そして報道の自由への挑戦として世間は大きく騒つく。

  

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