超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第2章:言論の自由を健全化しよう 5話(卯水酉/四谷三丁目)

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。同じく革命を目論んでいるフランス帰りの男・カケル(21)に招かれ、今再びこの国を変えようと動き出す。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

カケルはしもべ共に次なる指令を出す。
「試しに『檜坂まとめ天国』を攻撃してみよう」

  

再生回数爆死w 調子乗ったな綱の手引き坂は
希典坂の○○ウザい。うちの☆☆に近づかないで
○○はブス。足引っ張んないでくれる?

  

「このように他のグループを蔑める発言、特定のメンバーを謗る発言が野放しになっています。社会通念に照らして許されることではありません」
「本人は自分の推しを持ち上げたいのでしょうが、これでは逆に下げていますね」
「そのエネルギーを自分の推しの発信に回せばいいのにね。多分大して推してないんだよ、本当は嫌いなんじゃね。じゃなかったらただのノータリンだい」
「じゃあ今からこのサイトを操りますね。中傷コメを我々の手で削除してから返します」

  

一方でカケルは、コメントが許可される人物の選定に関するガイドラインを考えていた。
「言論の自由を完全に否定するとクソ独裁国家になる。勉強できない人でも意見する権利はある。ただ人を傷つけること、嘘を言いふらすこと、これが問題なんだよな」
「それは本当にそう」
「最終的には『検閲省』を作って罵詈雑言を世に出させないようにしたい。ただそのためには憲法改正が必要だ。つまり政権を奪わなければならない。今できることは…そうだ、思いつく限りのネガティヴワードを列挙するから、そのワードが含まれる投稿をブロックする機能をつけて返してやれ」

  

こうして世のネット掲示板では、「死ね」「消えろ」「ブス」「キモい」「ゴリ押し」など考え得る多くのネガティヴワードが禁句となった。ここまで来ると世間では「言葉狩りが始まった」と大騒ぎになり、国も言論の自由が脅かされていると判断し動き始めた。

  

思惑通りに事が進みご満悦のカケルは、檜坂メンバーkrnaを呼び出し四谷三丁目の居酒屋で飲むことにした。日本酒の品揃えが豊富なうえ飲み放題もあって惹かれるが、この日は量より質をとってまず新政天蛙スパークリングで乾杯する。
「ネット言論、すごいことになってるね。でもこれで君たちも少しは心穏やかに過ごせるんじゃない?」
「そうですね。自分もそうだし、仲間が攻撃されるのは本当に苦しいです」

  

この店はお通しも豪華である。日本料理店でいう八寸のように多様なおかずが揃い、ひとつひとつが綺麗に作られている。
「君も思うことは口にすればいい。楽曲に対する不満、ファンに対する要望、遠慮することない」
「いやあ、やっぱまだ周りの目が気になります」
「もういいんだよ。有名人や良識ある人は発言が封じられていた。そんな圧力があった。いま我々は平等を手にした。匿名で暴力振るい放題の無責任ガイジが支配する世の中とはオサラバだ」

  

八寸と安心感だけで新政を飲み干してしまった。茨城結城酒造の4銘柄飲み比べを頼むと、メヒカリ・山菜天ぷら盛り合わせが登場。タネは小さく見えるが、素材本来の味がしっかり凝縮されている。
「krnaはクール系だからな、センターとなると他のメンバーと比べてもかなり叩かれていた。檜坂の曲にはキミみたいな格好良さが必要なのにな」
「ありがとうございます。力入りますね」

  

続けて(巻かない)だし巻き卵が登場。あおさ・桜海老と卵焼きはあまり融合していないようで、特別感を味わうことはできなかった。だし巻き卵はある程度固めないと卵らしさがなく食べた気がしない、とカケルは考えた。

  

「カケルさん、本当にいいんですかね?」
「何が?」
「ネガティヴ発言を規制するのって」
「まあそういう疑問持つのは自然だろう。だからちゃんと説明する」

  

俺らが一連の言論統制で封じ込めたかったのは、表面しか見れない浅はかクソ右翼が才能を潰すことだ。試行錯誤や努力を繰り返し、一流のものを我々に提供してくれる人は大切に扱われるべきである。なぜ能無しの方が声デカいのか。しかもそういう奴に限って何話しても無駄だし。正しい論理で説いても何も理解してねぇんだ。多分人じゃねぇんだな。そんな奴にこの国を支配されたくない。だから最初から発言の機会を奪ってしまえばいい。

  

「もちろん建設的な批判はできるようにしたい。クソ発言と有難い言葉を高精度で選別する仕組みを作りたいと考えているから、協力してくれよな」

  

宴はクライマックス。冷蔵庫に見つけた新政頒布会を注文し、〆は沖縄そば。酔いに任せ惰性で食べてしまった。
「カケルさんありがとうございます、今度は日本酒飲み放題したいですね」
「平和な世の中になったら思う存分飲もう」

  

しかしカケルの力を以てしても抑え込めない媒体があった。SE○、YouTube、インスタなど海外資本を攻撃することは困難を極めており、ネット掲示板で暴れていた者共が続々と流入していたのである。

  

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