超大型連続百名店小説『世界を変える方法』第1章:真の正義を生み出そう 7話(七條/小川町)

*この店は現在、三鷹に移転しております。

  

かつてカリスマ的人気を集め社会を変革しかけたアイドルグループ・檜坂46。同じく革命を目論んでいるフランス帰りの男・カケル(21)に招かれ、今再びこの国を変えようと動き出す。
*この作品は完全なるフィクションです。著者の思想とは全く関係ありません。こんなことしようものなら国は潰れます。

  

3日後、警察は未だ犯人を仕留められていない中、カケルは新たに手に入れた仲間・ケイジの計らいにより、「一緒に逃走する」という口実で犯人を呼び出した。
「犯人は13時半に東京駅八重洲北口に来るとのことです。車で拾い、このドリンクを渡します。睡眠薬が入ってます。眠ったところを襲って逃げられなくし、倉庫に葬るという流れです」
約束の時間まで余裕があったので、2人はエビフライの名店「七條」で腹拵えをする。人が多い場所のためここでは世間話に終始する。
「この店結構有名なんですよ」
「そうなんですね。カケルさんはグルメなんですか?」
「はい。フランスにいたので食には拘るタイプです」
「ミシュランのお膝元じゃないですか。まあミシュランも信用ならないという声がありますが」
「私はゴエミヨ派です。こっちの方が外さないし信用できる」
「そんなのもあるんですね」

  

カケルはエビフライとメンチカツの盛合せを注文した。この店を象徴するというエビフライだが、清澄であるものの際立った旨味を感じ取ることができなかった。期待値を上げすぎてしまったようだ。だからオマケ程度に捉えていたメンチカツの方が、赤ワインか何かで味付けを工夫してあって印象に残ったのである。
「カケルさん、ここのエビフライすっごく美味しいです!ありがとうございます良い店教えていただいて」
「そ、そうですか…喜んでいただけたなら何よりです」

  

東京駅に戻って13時半、予定通り犯人を車の中へ連れ込むことに成功した。
「コーヒー飲む?」
「いや、今は要らないっす」
「そっか。じゃあ行こうか」
すぐさま睡眠薬を飲ませることはできなかったが、そうなることは織り込み済みだった。ケイジの別荘がある(という設定の)八ヶ岳方面へ、神田橋ランプから高速に乗り向かう。
「大変なことやってくれたね××くん。追われる身はつらいだろ?」
「つらいです」
「まあ暫く身を隠してなさい。都心にいるよりかは遥かに楽だろう」

  

山梨県に入ってもなお、犯人が睡眠薬入りコーヒーを飲む気配はない。
「こりゃ八ヶ岳まで行くな。楽しみだな清泉寮のソフトクリーム」
上野原を過ぎた辺りで犯人が睡眠薬を飲んだ。即効性のあるもので、犯人はすぐ眠りに落ちた。カケルの期待とは裏腹に、大月インターでドロップアウトとなった。
「つまんねえ奴だな。こんな何もない場所で降ろしやがって」
「主目的は犯人捕えることですよ。良かったじゃないですか、あなたの大好きなフランスですよここは」
「冗談を」
「小遊三師匠が言うにはここはパリ、あの川はセーヌ川」
「誰だよそのスケベ爺さん」
「よくおわかりじゃないですか」

  

人気のない場所を見つけて犯人を縛り上げる。
「これでもう抵抗できないぞ。大人しく倉庫で野垂れ死ねばいい」

  

東京に戻り、弱った犯人を例の倉庫にぶち込む。これにて任務完了である。
「この倉庫って、名前あるんですか?」
「そういえば決めてませんでした。あ、『タキヤマプリズン』なんてどうでしょう」
「由来は?」
「お察しいただければ」

  

その後カケルは、檜坂46に提供する曲の歌詞を書き上げ、冬元プロデューサーのチェックを受ける。
「ほう、思ったよりもいいじゃないか」
「ありがとうございます」
「でもな、作詞は俺なんだよ」
「冬元先生、現実を見てください。あなたは色々手を広げすぎです。質より量になってます。だから坂道グループの楽曲はファン以外に周知されていない」
「あのな、そういうことは言うもんじゃ…」
「都合悪いからって逃げるんじゃねぇ!」すごい剣幕で怒鳴るカケル。
「お、おい…」
「檜坂は俺が救います。彼女たちの秘めたるパワー、俺が引き出します」

  

続いてのニュースです。台場の音楽イベントで発生した性暴力事件について、容疑者とみられる男が何者かに連れ去られ殺害されました。遺体には「アパーランドの皇帝」と書かれた紙が入れられていました。

  

「『アパーランドの皇帝』って、もしかしてカケルさんのこと…?」
「多分そうですよね…」
「みんな、ちょっといいか?」
「カケルさん、もしかしてあれ…」
「ああ、犯人くたばったね。めでたしめでたし」
「怖いですって。サイコパスですよ」
「だから何だ。お前たちには重大なミッションを与える。プロパガンダの担い手としてこの曲をパフォーマンスしてもらおう」

  

『同調圧力』
同じ時間に満員の電車に乗って
同じ時間に昼飯 同じ時間に帰る
休日は一斉にお出かけ 高速は大渋滞
アトラクションは3時間待ち 疲れ果てて帰る
そんなに大勢集まって 何が楽しいんだか
人と同じでいるだけで 君らは満足かい?
せっかく生まれて来たのなら 自分を持って生きろ
人と違うことしたって 何も気にすることない
全体主義という名の奴隷船から飛び降りて
同調圧力という流れに逆らい生きようぜ
子供の頃から無意味なルール押しつけられ
従えば褒められて 刃向かえば怒鳴られて
自分はこれをやりたい でも周りの目が怖い
自分勝手な奴と見なされ 冷ややかな視線向けられる
それじゃ生きてる意味 無いと思わないか?
自分を殺してまでも 人に合わせてたまるか
せっかく生まれて来たのなら 自分らしく生きてやれ
人の言いなりになるだけの人生はつまらない
集団主義という名のロボット工場から抜け出して
同調圧力という滝に抗い 自分を高めろ
自分を貫けばその分 責任が問われるけど
少しくらいリスク背負った方が面白いよね
覚悟決めきれず 平凡な道を選んだら
楽かもしれないけど 後悔は一生ついてまわる
せっかく生まれて来たのなら 自分を持って生きろ
人と違うことしたって 何も気にすることない
全体主義という名の奴隷船から飛び降りて
同調圧力に染まった世に逆らい生きたい

  

「力強い詞!」
「榎坂時代を思い出しますね」
「作詞は俺がした」
「冬元先生じゃないんですか⁈」
「冬元とは手を切った」
「えっ⁈」
「君たちはもう冬元と関係を持っていない。これからは俺がプロデューサーだ」
「話が突然すぎますって」
「もちろん綱の手引き坂とも関わらないことだ。兄貴タテルの支配下にある綱の手引き坂はライヴより個々の活動に重きを置き始めた。パフォーマンスを捨て、バラドルの道を歩むようだな。目指す方向が全然違う。連むことはない」
「でも、榎坂(えのき坂)時代の関係性もありますし…」
「切れ、そんなの」
「…」
「君たちにはパフォーマンスを第一にしてもらいたいからな。檜坂は檜坂だ。何言われようとこの姿勢を貫くんだ。そしてもう一つ、これまで君たちは歌いながら踊る体をとっていたと思うが」
「ちょっと待ってください、『体』ってどういうことですか」
「全部生歌じゃないだろ?激しいダンスしながら歌うなんて不可能だろう」
「それは言うもんじゃ…」
「逃げるんじゃねぇ!世間の目は誤魔化せないぞ。これからはヴォーカルとダンサーを分けます。世界に通用するパフォーマンス軍団とはそういうものです」
「…」
「まあ突然のことが多すぎて不安になる気持ちはわかります。でも危険な目に遭わせようとは考えていません。基本は今まで通りやれば大丈夫でしょう」
「わかりました。カケルさんの期待に応えられるよう頑張ります」
「ありがとう。2週間後にはリリースだから」
「えっ⁈早くないですか⁈」
「じゃあこれからTSUNAYOSHIさんによる振り入れに入ります」
「ちょっと…」

  

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