妄想連続百名店小説『彩とLOVE AFFAIR』3.秘密のデート(パブロフ/元町・中華街)

グルメタレント・TATERU(25)が、モデルとしても活躍するアイドル・アヤ(24・綱の手引き坂46)と繰り広げる、夢のような禁断の横浜デート。全7話。

  

みなとみらい線に乗り、元町・中華街駅に降り立った2人。
「そういえばアヤ、カフェ巡り好きだよね」
「大好き。この前も代々木上原のカフェにわんこ連れて行った」
「OK。そしたら次はカフェ行こう。カフェはカフェでも、俺が知っている中で一番夢心地なカフェへ」

  

橋を渡り、元町エリアと中華街のちょうど中間のような場所に、人気のスイーツ店がある。
「パブロフ?なんか行ったことある気がする」
「それたぶん虎ノ門ヒルズの店だよね?」
「え?なんで知ってるの?」
「インスタ見てるから。あのあつらえは虎ノ門のパブロフに決まりさ」
「タテルくんって、探偵みたいね」
「えっへん!でもここ本店は、虎ノ門の百倍映えるぞ」

  

店を入ると左手に、次の夢への入口があった。平日ではあったが夢の世界は満席。5分ほど待ってようやく、夢への扉が開いた。
ふかふかの布が貼られた椅子。星付きホテルのような絨毯。淡い緑の壁。まさしくおとぎ話に登場するようなお洒落な部屋である。
「わぁ!ティーパーティの世界だ」
「俺みたいなおっさんには似合わないけど…」
「何言ってるの、楽しみましょうよ!」
「ありがとう」
「でもお腹いっぱいだから、ケーキセットとかは無理かな。美味しそうだけど」
「じゃあプリンアラモードくらいにしとくか、プリンアラモード2つお願いします」
「危なかったですね。ちょうどあと2つでした」
「やった。私たちギリギリセーフ」

  

やってきたプリンアラモードには、フレッシュな苺がたっぷり乗っていた。プリンは硬めでタテルの好みではなかったが、とろけるプリンならプリンアラモードの造形は保てない。
このスイーツの見せ場は苺の方である。甘すぎないプリンやクリームが、苺の持つ甘さに干渉しない。それにより、苺の正しい甘さを楽しみつつプリンを食べるという、1つの綺麗なプログラムが成立するわけだ。

  

落ち着いた空間で過ごすまとまった時間。ここはひとつ会話を弾ませなければならない。しかしタテルはトークを回すのが下手だ。忘年会ではいつも、人と話すよりも飯を食うことに注力する。それでいて割り勘だと調子に乗って高いものを沢山注文するから厄介である。
何とか会話の糸口を探ろうとするタテルだが、なかなか見つからない。実はアヤもおとなしい方で、グループでは仲良しのメイと以外あまり会話をしているイメージがないという。美形で間違いなく魅力的なのだが、タテルの喋りを立たせるほどの特徴が思い当たらないのだ。
夢の世界なのに、夢を見ず眠っているような、沈黙した恋人たち。

  

「ねぇアヤ、キミの将来の夢って何なの?」ようやく口を開いたタテル。
「将来ね…タワマンに住んで、お金持ちになることかな」
「ふーん」
「タテルくん、聞いといてなんで興味なさげなの?」
「だってその夢ってさー、自分自身の価値上げるものじゃなくね?絶対他にやりたいことあるでしょ?何で隠すの?本音言ってよ!」
「じゃあタテルくんはどんな夢あるのよ?」
「そ、それは…グルメ極めたいとか、面白い旅したいとか、YouTuberとして大成したいとか、歌うたいたいとか…」
「タテルくんだって、なんか逃げてるよね?やりたいことブレブレよ」
「それはさ…」
「人に言う前に自分を見つめ直したら?私は芸人としてのタテルくんが好きなの。なんでお笑いを追い求めないの?次世代MC芸人になりたいんじゃないの?」
「…」何も言い返せないタテル。

  

「よ、良くなかった喧嘩なんて。行こうか、ご迷惑おかけしました…」冷静さを取り戻したアヤ。2人は夢の部屋を脱し、お土産を見繕う。

  

「アヤ、これ買っていこう。美味しいんだよねここのパウンドケーキ」
オレンジ、苺、チョコ、抹茶などといったフレーバーは、名前だけではない。オレンジならオレンジの、抹茶なら抹茶の味がちゃんと感じられる、素晴らしい商品だ。クグロフとなるとさらにチョココーティングが加わり、新たなハーモニーが生まれる。
「メンバーのみんなで食べて。あ、喧嘩にならないように5箱くらい買おう」
「そんな買わなくていいよ。さっきあんなムキになっちゃったのに…」
「いいんだ、いいんだ。その代わり、俺からの差し入れだということは黙っておいてな」
羽振りの良いタテルは、パウンドケーキとクグロフの入った箱を7箱買い、伝票まで書いた。

  

路地を再び進み、中華街のエリアに入った。
「夢のことで喧嘩できた俺らって、最強なんじゃない?」
「そうかもしれない。私のこと怒ってくれたの、うちのマネージャー以来」
「俺も大人になって、都合良く自分の悪いところ隠してた。教えてくれてありがとうだよ」

  

距離の縮まった2人は横浜大世界を訪れた。トリックアートを楽しみ、花文字を描いてもらい、アヤはチャイナドレス姿の写真を撮ってもらった。
「すごかったここ!遊びの聖地だ」
「これぞデート、って感じ!そしたら次は関帝廟にお参りに行こう」

  

その道中の山下町公園に差し掛かった瞬間、1人の男がアヤを襲う。

  

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