妄想連続百名店小説『クイズ王街道、驀。』Q3:クイズに託けて仲間を見捨てる。

東大卒の肩書きを活かしクイズ番組でも大活躍するグルメタレント・TATERU(25)が、「宮崎美子の再来」と持て囃される気鋭のクイズアイドル・カゲ(綱の手引き坂46)と繰り広げる東北1泊2日の旅。

「途中までしか読みません、問題!」

どっどど


「えっ⁈全然わからな…」
「それじゃダメだ!西大后の亀ちゃんなら2文字で押してる。だいいち『わからない』は禁句だ!」
不覚をとった1時間前を悉皆忘れたタテルは相変わらず偉そうだ。カゲの才能を見縊っていることに全く気づいていないようである。
「正解は『風の又三郎』でした。今からその作者・宮沢賢治の生まれた岩手県に行きます」

盛岡駅に到着した。
「ここでクエスチョン」

ここ盛岡駅には新幹線ホームの特定の箇所に人集りができます。盛岡から新幹線に乗る人以外も集まるのですが、それはなぜでしょう?

タテルは世界ふかしぎ発見のミステリアスハンター風に歩きながら出題した。
「それは…名物駅員がいるから」
「残念!ということで夕食の前沢牛はボッシューティンです、チャラチャラッチャ」
タテルは1人で盛岡の街へ繰り出した。カゲは駅に置き去りにされた。因みに正解は、「はやぶさとこまちの連結や切り離しを見るため」である。

盛岡城公園方面へ歩くこと15分。雑居ビルの4階、出鱈目な酒場しか無さそうなフロアだ。知識の有り余るタテルは火事を恐れ避難経路を確認した。

アプリを入れるとワンドリンク無料と言われ試みるタテル。しかしパスワードが判らず父に電話した。
「(良かったカゲ置いて来て。こんな醜態晒せない…)」

無事地ビールをサービスしてもらい前菜3種盛り。タテルは玉蜀黍をクリームチーズで和えると美味いこと、苦手な鯏の美味しい食べ方という、2つの知識を仕入れた。


五升薯ポタージュ・シーザーサラダは提供のペースが速く印象に残らなかった。


比目魚には菠薐草のソースがかかっていたが、他の食材と違い蒸し焼きにされなかったせいか水分が飛び、ソースと親和していなかった。ソースが優秀なだけに、居た堪れない気持ちになった。


ロブスター・鱈場蟹は蒸し焼きにされたため身が生き生きとしており、素材の良さを感じられた。
因みに鱈場蟹は蟹とは銘打っているものの寄居虫の仲間。楚蟹などは脚が10本あるが、鱈場蟹は2本が体内に潜り込んでいるのだ。

肉は3種。前沢牛から2つの部位と、久慈のブランド豚・佐助豚だ。豚肉は残念なことに火が入りすぎで、柚子胡椒という反則技と合わせて漸く丁度良くなる。前沢牛も格段盪ける訳ではなかった。


〆のガーリックライスは淑やかな美味さであった。

デザートは思いの外葡萄の香りが強いパンナコッタで満足したが、香料頼りの可能性も否定できない。

独り飯を堪能したタテルは揚々と盛岡駅に戻った。クイズに輸けたカゲは駅ビルの地下で虚な目をしていた。
「ごめんよカゲ、待たせたな」
「…」
「ほら行くぞ、今晩のホテルに」
「ここでクエスチョン」

盛岡といえば盛岡冷麺が有名ですが、考案者の青木さんが客からの意見を受け、最初に改良したのはどれ?


「え、いきなり何よ」


①コシの強い麺 ②牛骨出汁主体のスープ ③トッピングの辛いキムチ

「…③のキムチ!」

「じゃあこちらの台に乗っていただいて…」
「待て待て、どういうことだ」
すると台の床が開き、タテルの軀は奈落の底へボッシューティンされた。
「残念でした。正解は①の麺です」
「おい出してくれ!悪かったよカゲ、冷麺奢るからさ〜」
こうして1日目の旅は終わった。

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