妄想連続百名店小説『クイズ王街道、驀。』Q1:人の失敗に憮する。

東大卒の肩書きを活かしクイズ番組でも大活躍するグルメタレント・TATERU(25)が、「宮崎美子の再来」と持て囃される気鋭のクイズアイドル・カゲ(綱の手引き坂46)と繰り広げる東北1泊2日の旅。

「あなたの心にラ・トゥールを!建てるちゃんねるです!今日の企画は、旅するクイズまっしぐらカデミー!早速ゲストです、かげ〜!」
「こんにちは!貴方のハートにゲーミングチェア、陰ちゃんです!」
「今回は僕と一緒に、東北で1泊2日のクイズ合宿を熟していただきます!」

Qちゃま⁉︎・明朝もナゾトレ・西大后・ミラクルアタック225など数々のクイズ番組で活躍するタテルは、自分が大好きなアイドルグループから現れた新たなスターに心惹かれていた。しかし好きな子を苛めるタイプのタテルは、まだまだ知識に穴の多い彼女を嗾けたくなっていた。


始発のはやぶさに乗ってすぐ、タテルは扱きを始めた。
「観たよ『小学1年生より賢いの?』。1億円の問題まで行ったのすごいね。でもあの不正解はいただけないな。アメリカ大統領選が奇数年にあるわけないじゃん」
「その通りですよね…あの後反省しました、まだまだ甘いな、って」
「俺らクイズプレイヤーは意外と一般常識に欠けていることが多い。どんなに難問を正解できても、そこを疎かにすれば非難轟轟だからな。世間とはつれないものだ。お互い気を引き締めよう」

タテルは早速、問題を出した。
「戦いは移動の車内から始まってる。1stステージは駅名シークワーズだ。仙台に着く前に解ききれ。目的地は青森だが、解ききれなかった場合は仙台で降りてもらう」
「え、いきなり⁈しかもそんな残酷なルール…」
と言いつつ解き始めるカゲ。
大楽毛・学文路・木下・及位・吹浦・美談…リストには難読駅名の数々。苦戦するカゲ。

はやぶさは白石蔵王を通過した。まもなく時間だ。
「できました。答えは『いくぜとうほく』です」
「…正解。よくやったな!」
「シークワーズですから。一部に特殊な読みが有っても、常識的に読める箇所を拾っていけば何となく解るものです。あ、でも『のぞき』だけは最終盤まで残りましたね」
タテルは感嘆した。知識がなくても、正解に至るための方策を確り考え抜く。自分にはないスキルを発揮され、恥ずかしさを覚えた。

こうして2人は無事に新青森に着いた。林檎ジュースの自販機を横目に在来線ホームに降り、特急つがるの自由席に乗って青森駅へ。
「シークワーズを解けたカゲへのご褒美は、ホタテ!今から定食屋『おさない』に行きます!」

しかしタテルを待ち受けていたのは、シャッターの降りたおさないだった。
「あれ、本日休業…?聞いてないよ!」
この日は火曜日。月曜が定休だが、月曜が祝日なら火曜が休み。しかし偶に、月火連休もある。タテルは罠に引っかかってしまった。

手前にあったシエラレオネコンビニに入り作戦会議。代替候補であった魚菜センターも火曜定休。バツが2つ点いたタテル、早くも失格へリーチ。
仕方なく再び通りを進む。すると市役所駅前庁舎の地下に市場があることに気づいた。入ってみると、そこにはホタテフライ定食があったのだ。
「やった!ホタテ食べられるべ」タテルは安堵と歓びで思わず訛った。

調子に乗ったタテルは問題を出す。
「問題。青森を代表する日本酒の銘柄『田酒』を製造している蔵元の名前は何でしょう?」
「…」
「西田酒造店」
「それは私の守備範囲にないですね」
「中に『田酒』って入ってるでしょ。だから田酒。こうやって覚えておけば、興味ないことでも印象に残るから」
そう言ってタテルは、西田酒造の別ブランド「喜久泉」とホタテフライ定食、せんべい汁を注文した。
なみなみと注がれる日本酒。これで770円はお得のようだが、味はやはり田酒の方が良かった。

「カレーもあるんだね」カゲは興味津々であったが、残念なことに売り切れ。朝早く来ないと食べられないのだ。差し詰めカゲは寿司を注文した。

ホタテフライがやってきた。青森名産のホタテを丸ごと揚げたものが4つ。しかしタテルは訝しむ。
「(これってホタテなのか?ホタテらしさに欠ける)」
タルタルソースの完成度は高い。序でに言えばサラダも美味い。ホタテだけが疑問だった。

更にタテルは陸奥八仙飲み比べを追加発注した。これも不正解。ここにある八仙各種はタテルが贔屓にしている酒屋で買えるものだった。タテルは外ヶ濱も検討していたが、2択を外したようだ。
情けないタテルのためにホタテの正解を述べると、この周辺には帆立をウリにした飲食店が何軒かある。市場を通過して少し行けば、柿源という定食屋で帆立づくしを楽しめたのだ。

一方でせんべい汁は正解だったようだ。外側は硬く、内側になると少しふにゃっとするこの感覚。出汁も染み染み美味い。
「ふぅ…青森まで来た意義は確保できた」
「でもせんべい汁って八戸の郷土料理ですよね。青森市内じゃない」カゲの指摘は利い。

そこに寿司がやってきた。途轍もなく長い板に載っていた。
「吃驚!こっちが正解だったな。いつも選択肢を間違える」
タテルは人生の悲哀に浸っていた。

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