『続・独立戦争 下』内包ストーリー『秋田フェスプロジェクト〜ふるさとのにじ〜』 四色「自然共存型フェスを目指して」(田なか/泉外旭川(秋田))

人気女性アイドルグループ・TO-NAへ、秋田県から直々にフェス開催のオファーがあった。TO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)のタテルは二つ返事で受諾し、特別な想いを持って準備を進める。

  

翌朝、しっかり休んだタテルは県の関係者と共に会場となる秋田県立中央公園を視察する。
「うわぁ、空気が気持ち良いですね!」
「市街地がら30分でこの自然だす」
「自然を楽しんでもらうのも良いですね。TO-NAには蛙や蜻蛉、ヘラクレスオオカブトと戯れるワイルド少女も多いんです」
「女の子でそんたの好ぎでいうのは今どぎ珍しぇ」
「俺は苦手なのに。苦手なんですけど森の中に佇むのは大好きです。秋田杉ジンも美味しいですし」
「あれはほんに香り良ぐで落ぢ着ぐよね」
「熊は大丈夫ですよね?」
「この辺には来ねね。奥羽山脈の方は用心しねばだげど」
「良かったです。せっかくフェスやるなら、ここにTO-NAが来た証を残しておきたい。記念樹って植えられますかね?」
「なるほど、それはえアイデアだ。管理者の方さ掛げ合ってみるべが」

  

管理者が確認している間、ライヴ会場となる陸上競技場を見学する。総収容人数は2.2万人と、TO-NAの今の人気具合、そして地方都市でのフェス実施と考えれば十分なキャパである。
「ステージってどんた感じで配置されるのがな?」
「左右の丸くなっている部分にステージを建てようと思います。片方をメイン、もう片方をサブで」
「2づ建でるんだ」
「その方がより多くの人に生のパフォーマンスを観てもらえますからね。勿論モニターも設置するのでそれで補いつつ観てもらえれば、と思います」
「オペラグラスも少し用意しておぐべが。あ、電話。はいもしもし。おっ、記念樹植えでえ。どうも!」
「無事ライヴまで完走できたら、植えさせていただきます」

  

この日も昼食をご馳走してもらう運びになった。
「ダデルさん、秋田のお蕎麦は食べたことある?」
「無いです。でも気になるところは押さえていますよ。田なかさんかかとうさんか」
「流石だねダデルくん。じゃあ車じゃないと行きづらい田なかさんにしましょう。日本酒好きのタテルさんなら絶対満足するよ」

  

新国道を土崎・セリオン方面へ北上する途中の八橋大畑交差点を右折。マクドナルドが目印である。近くにはバス停もあるので、秋田駅や川反エリアからアクセスする際は利用すると良い。
「小江戸っていうラーメン屋少し手前にあって、こごもえんだよね」
「秋田でラーメンは食べたことないですね。絶対美味いとは思いますけど」
「比内地鶏のラーメンさ男鹿の塩ラーメン。名店色々あるがら、何軒が出店交渉してみるよ」
「ありがたいです本当に」

  

田なかに到着。十割そば、という旗こそ出てはいるが完全に一軒家の佇まいである。普通の住宅と変わり映えしない扉を開け靴を脱ぐ。他所の家を訪ねる感覚である。

  

「蕎麦も天ぷらも色々ありますね。迷っちゃいます」
「今の時期は山菜を食べておきたいね」
「山菜の天ぷらと、やっぱ比内地鶏のつけ蕎麦ですかね。夏は蓴菜蕎麦も美味そうですけど」
「蓴菜蕎麦はフェスまでのお楽しみにしておきましょう」

  

そして日本酒を見繕う。秋田の有名どころの酒蔵は一通り網羅。それに加え気になったのは、店主が米の栽培から醸造まで全て行って造られた日本酒である。

  

「え、猫がいる!可愛い〜」
「猫好きかね。ここは猫がいる店として有名なんだよ」
「茶虎ちゃんだ。尻尾も立派でいい子だねぇ」

  

口当たりは軽く、じわじわと米の旨味・アルコール感が出てきて最後は甘く纏まる。自家製でもちゃんとした日本酒ができることに驚くタテルであった。

  

「まさか中央公園にアスレチックまであったとは。楽しかったですね」
「しったげ楽しそうだったね。おじさんの小さぇ頃にもあんたのが欲しかった」
「メンバーを連れてYouTube撮影したいです。体力自慢が多いので映えること間違い無しです」
「体力自慢でいうど、カコニぢゃんリオぢゃんチカぢゃんあだりがな?」
「めっちゃ詳しいじゃないですか」
「調べだよ皆さんのごど。おじさんだんて新しぇごどあまり覚えられねども、TO-NAのごどはするする入ってぎで」
「嬉しいですめっちゃ」
「こんたに個性豊がなグループは見だごどね。大喜利がでぎだりぶりっ子大会やったり、懺悔室で美肌の湯がげられだり」
「すっかり『TO-NA贔屓』になられましたね」
「ファンの総称だ。はい、おいだば完全にTO-NA贔屓だす」

  

山菜天ぷら盛り合わせ。右からシドケ、タラの芽、こごみ、サゴシ。シドケはちょいとねっとりしている。タラの芽は大きくて味濃いめ、満足度高し。こごみは渦巻き部分の芋っぽさが良い。サゴシは天ぷらにすることによりスナック感覚で食べられるのが楽しい。

  

天ぷらを食べている内に比内地鶏の汁そばが仕上がった。先ず蕎麦自体香りがはっきりとした良質なものである。それを濃口のつゆにつけると解り易く美味しいものとなる。比内地鶏自体もセオリー通りの筋肉質と旨味。芹、そして香りのある短冊状の茸(エリンギにしては香りが強いような)も個性を遺憾無く発揮する。
「遠慮してね?どんどん飲んでしまってけれ」
「じゃあお言葉に甘えて」
「さっと冷蔵庫見に行ってみだら?入口付近にあるよ」

  

厨房に入るところに日本酒の冷蔵庫があり、手指消毒した上で勝手に覗いてみて良いシステムである。実はあの永楽以上に新政との繋がりが深い店であり、左最下段には、タテルへのCLASH砲第2号の引き金となった紫八咫や久で空振ったNo.6直汲、現在製造されていないラピス(2018年物)など気になる物が多数揃っている。

  

「あのー、すみません……」
店主を呼ぶが反応が無い。
「ダデルさん、調理中さ呼びがげでも反応してぐれねんだ。手離れだら呼びがげでみで」
「承知しました」
助言通り待って呼びかけてみると、店主はタテルの存在に気づいてくれた。ラピスを注文する。

  

「最初に日本酒を飲んだのが、家の近所の酒屋にあった新政ラピスなんです」
「えの近所さ?東京で?それは贅沢だねえ」
「今は人気が沸騰して買えなくなっちゃったんですけどね。ああ、やっぱこの吟醸香。甘みだけじゃなくて酸味も溶けているのかな、心地良いフルーティさに取り憑かれました」
「そんた味好ぎな若ぇ方、増えでぎでらもんね。日本酒飲むふとが増えでけで有難ぇ限りだよ。フェスでもお酒出す?新政さんに声がげでみる?」
「気持ちはあるんですけど、ここは敢えて出さない方が良いかと。新政さんが出るとなると新政フェスになってしまうじゃないですか」
「確がにそうだな。メインはあぐまでもTO-NAさんのライヴだもんね」
「そうです。現行のファンに秋田を感じてもらうのも大事なんですけど、秋田にいるファン、これからファンになって下さる方々にTO-NAを見てもらうのが主です」
「んだ。酒乱起ぎでライヴさ支障出るのも良ぐねしね」
「はい。飲みたい人は、フェス終わりに街中で飲むでしょうから」
「永楽さんはてっぺんまでやってらし、バーもあるし」
「ライヴの感想を摘みに酒飲むの、最高なんですよ。タマキが歌上手くなっていた、ナナのダンスバキバキだった、ミクの顔儚かった、レジェのウインクに悩殺された、とか」
「おいもやってみでゃねそれ。よし、土曜の夜どっか予約しておごう」

海老天の海老は、まあ普通の蕎麦屋と変わらない質である。
ダラダラ食べていたので途中つけ汁が冷めてくるのだが、それでも美味しさを保っている。

  

タテルはもう1杯新政を追加した。低精白酒(米を殆ど磨かず醸造)にるがめの10周年モデル。貴醸酒に仕立ててあるため甘みがあり、これがあまりにも心地良いものでスルスルと飲んでしまう。外箱と同封された説明書もしっかり見せてくれた。

  

「でもビールは欲しいですかね。暑いので」
「ならあくらビールか田沢湖ビールだな」
「秋田杉ジンソーダもアリだと思います」
「自然の中で飲むにはピッタリだね」
「ドリンクチケットを入場券とセットにして1人1杯迄、アルコールはお金では買えずドリンクチケットとのみ引き換え、とすれば酒乱は防げるかと思います」
「飲兵衛さんがあぢごぢ嗅ぎ回って、チケット譲るよう言ってこねがな?」
「ソフトドリンクとの引換も可能なので、譲りたがる人は少ないかと。もしトラブルあれば担当者を介入させます」
「県の職員派遣するべが?そんた対応さ慣れでら強者がいでね」
「それめっちゃ有難いですね。是非お願いします」

  

新政は値段が記されておらず会計が不安であったが、タテル飲食分の会計は5,030円。新政の分はざっと2千円であり、珍しいものを飲んでこれくらいなら悪くない金額である。

  

「たながさん、TO-NAってアイドルグループが9月さ中央公園でフェスやるんだってよ。ここの蕎麦美味ぇがら出店してけだら?」
「フェス?いやあどうなんだろう」
「香りの良い蕎麦に比内地鶏のつけ汁、堪らなく美味しい。夏は蓴菜もありますよね、是非出店してください!」
「褒めてもらえたら、出ない訳にはいかないな」

  

一方あきたフェス妨害を目論む野元は、改めてそのやり方を考えていた。
「表立って妨害するのは止めようと思うよ」
「どういうことです?」
「タテルを消せば自動的に中止になるじゃないか。今やっているタテル潰しを頑張れば良い、ということに気づいてね。僕は余計な労力は使わない主義なんだ」
「確かに、あれもこれもやると混乱しますもんね」
「事は進めるだけ進めさせよう。その上で突如中止、となったら味噌がつくからね。CLASHのコタツ記事書く指が進んで仕方ないよ」
「面白い。ただもしフェス開催までいってしまった場合、策は考えているんですか?」
「勿論だよ。その際は君にも協力頼むからね」

  

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