『続・独立戦争 下』内包ストーリー『秋田フェスプロジェクト〜ふるさとのにじ〜』一色「会場は…」(炭火焼肉 久/秋田)

「みなさ〜ん、こんにちは〜!TO-NAのキャプテン代行、カコニで〜す!さあ私たちはどこにいるでしょう?」

  

TO-NAを探せ、で開幕したあきたフェス。観客は辺りを見回すがTO-NAの姿を見つけられない。すると秋田犬を模したゴンドラが3台現れ、そこにTO-NAのメンバーが勢揃いしていた。

  

「ここです、ここここ!皆さん、本日はあきたフェスにお越しいただきありがとうございます!猛暑ではありませんが、熱中症対策しっかりしましょう!国際教養大学さんの建物で適宜涼んでくださいね。お酒飲む方も程々に〜!それではアトラクション楽しんで、夕方ライヴで会いましょう」

  

9月中旬の3連休のうち最初の2日を利用して、女性アイドルグループ・TO-NAによる「あきたフェス」が秋田県立中央公園にて開催された。メイン企画は夕方から夜にかけて行われるTO-NAのライヴであるが、それ以外にもTO-NAに纏わるアトラクションやグッズ販売、そして秋田の名物料理や銘酒を提供する出店を揃えてある。出店に関しては、これまでに3度秋田を訪れ、その食や酒の虜になったTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルのマターであった。

  

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話は4月末に遡る。あきたフェス開催のオファーを受諾したタテルは、県の関係者と面会するため秋田を訪れる。まだ1年の1/3も過ぎていないというのに、3度目の秋田訪問である。今までは新幹線で4時間かけて訪れていたが、飛行機なら(早めに予約すれば)同じくらいの運賃で、羽田から1時間、その後リムジンバスで40分で秋田駅に着けるから楽である。タテルはリムジンバスを乗り通し県庁に降り立った。

  

「ようこそダデルさん。とぎぇどごろよぐ来なさった」
「こちらこそありがとうございます、大好きな秋田でフェスができるなんて、これほど嬉しいことは無いです」
「その秋田愛で、ぜひ秋田を盛り上げでたんせ。んだ、アドバイザの方ともリモートで繋いでらんだった」

  

「どうも、旅行ジャーナリストの鳥海山大パノラマです」
「チョーカイさんじゃないですか⁈観てましたよ、風間さんのニュース番組で旅行特集してたの。毎回のように海鮮丼食べてラーメン食べて」
「ハハハ。なにぶん食いしん坊なもんで」
「旅のスペシャリストどいったらやっぱしチョーカイさん。色々解決せねばならぬ問題もあるすからね、一緒さ考えでいぐべ」

  

フェスを開催することにより数十億円単位の経済効果が見込めることは、宮崎で似たようなフェスをやった日向坂46が証明している。ただ大勢の客を地方都市に招くのは簡単なことではない。
「まずは開催場所だね。候補5づ挙げさせでいだだいだ」

  

①秋田県立中央公園
②八橋運動公園
③秋田港・セリオンエリア
④ふるさと村(横手市)
⑤男鹿総合運動公園(男鹿市)

  

「なるほど。セリオンは行きましたよ、海がすごく綺麗ですよね」
「んだ。秋田港の開げだ場所使ってライヴやるごどはでぎそうだす。ただ開催実績無ぇのど、道の駅以外はなんもね場所だんてインフラ弱すな」
「設備面での懸念は大きいですね。めっちゃ良いとこだけど」
「音楽フェスどなるど、男鹿さ開催実績あるがら結構お勧めだすね」
「男鹿!行かなくてもわかります、風光明媚な土地であること」
「ありがだぇ。んだども秋田駅がら電車で50分、本数は1時間に1本以下だんて、大人数運ぶには別の手段考えねばねぁ」
「臨時シャトルバスとか用意していただくことになりそうですね」
その他、八橋運動公園は住宅街への騒音、横手はアクセス(新幹線駅・空港のどちらからも離れている)がネックである。

  

「あれ、もう1時になるね。お昼食いに行がねぁ?焼肉屋、今だば飛び込みでも入れれば思うす」
「もしかして『久』さんだったりします?」
「流石ダデルさん、よぐご存じで。おいがだが奢るす、是非えぐべ」
「嬉しい。ありがとうございます!チョーカイさんも、また東京でお会いしましょう!」
「楽しんできてください!」

  

秋田、いや東北を代表する焼肉店「炭火焼肉 久」。モダンな店構えであり、服に焼肉の匂いがつかないという評判もある。
「せっかぐ来だんだんて、一番高ぇ永久ランチ頼んでたんせな」
「じゃあお言葉に甘えて」
「ソフトドリンクもついではいるんだども、ダデルさん日本酒飲みだすべな顔してらね?」
「新政が一通り揃っていますね。タンジェリン?初めて見るなぁ。ああでも一白水成も気になる」
「せっかぐだんて飲んでいぎなさい。ソフトドリンクはコーヒーにでもしておいで、食後のソフトクリームど一緒にくとえ」
「至れり尽せりじゃないですか。最高の昼飯になりそう」

  

この店の焼肉のために誂えられた一白水成。うすにごりである。にごりのカルピスめいたコクがありつつもフルーティでスッキリとしている。

  

永久セットの肉のラインナップは、手前が鶏肉・カイノミ、右にサガリ、左にハラミ、奥がヒレである。食べ盛りの男子にとってはやや少なめかもしれない。

  

早速カイノミ、サガリ、ハラミ、鶏を焼いてみる。火力は強めに思えるが、店員が通りがかった序でに適宜調整してくれる。

  

まずはサガリから。肉質がとにかく綺麗。味付けも綺麗。一口で東北を代表する焼肉屋たる実力を感じ得た。
カイノミは赤身が筋肉質で、穏やかに脂が溢れ出す。一方で肉汁がジュワッと溢れるのはハラミ。このように部位による多様性を気軽に、1人からでも堪能できるのもこの店の強みである。鶏肉は恐らく比内地鶏とは違うものだが、淡白ながらしっとりとした大人しめの肉質である。

  

「ダデルさん、今日は飛行機で来だ?」
「はい。速くて快適でした」
「空港の滑走路の奥にあるのが中央公園だす」
「あ、そうなんですか?国際教養大学があるのは調べたんですけど」
「その奥だすよ」

  

早速Googleマップの空撮を確認してみる。
「あ、良いですねここ。多彩なフィールドがあって、色々なことができそう」
「だべ?空港がら近ぇのも利点だす。滑走路は突っ切れねがらさっと大回りするすんだども、シャトルバス走らせるごど検討するす」
「宿泊施設は秋田駅や川反に集中してますけど、そちらへのバスも増便されますかね?」
「もしやるだば掛げ合うすよ。秋田盛り上げる一大イベントだすからね、協力してけるはずだす」

  

調子の良いタテルは新政タンジェリンを追加発注した。ラヴェルの色に引っ張られてか、柑橘系のフルーティさを感じた。

  

高級鉄板焼店で供されるような綺麗なヒレを炭火焼きにする。焼肉らしいワイルドな味わいもよく似合う部位である。

  

「ダデルさん、秋田さ親戚いるどがでねんだすよね?」
「はい。祖父母の代まで皆東京、江戸っ子と言っても過言ではないです」
「よぐ秋田さハマっていだだげだ。何ど嬉しぇごどだべ」
「食と酒が好き、というのが大きいですね。秋田は東北の最大都市・仙台と張り合えるくらい名店を多く抱え、日本酒の製造も盛ん。その日本酒を地元の伝統食と愉しめる居酒屋が、永楽や酒盃など沢山ある。そして川反にはバーの名店が密集。堪りませんよねこれ」
「県民より詳しぇでねぁが。最近の若ぇ県民さん、あまり秋田の食の魅力おべねで寂しぇんだすよね」
「TO-NAのメンバーはカコニはじめ酒好きが多く、一流の食も学ばせています。メンバーにPRさせて、同世代に刺さるようにしたいですね……えっ?」

  

タテルの知らないところで単品のタンが注文されていた。恐らく冷凍物ではなく、やわやわとした弾力と確かな旨味を感じられる絶品である。白飯も進んで仕方ない。

  

悦に入ったタテルはまたも新政を追加する。県外ではそうそう飲めない(あったとしても高い)No.6のS。本当は直汲もメニューにあったのだがこの日は切らしており、贅沢言わずにノーマルのものを。それでも磨き抜かれたフルーティさに酔いしれる。

  

「江戸っ子だば、たがむらさんの江戸料理どがどうだす?」
「名前はもう大変存じ上げておりますが、紹介制だからどう行くか悩んでて」
「そいだばおいの会員番号紹介するがら、たがむらさんに電話して話通してみでたんせ」
「うわぁ、ものすごく有難い!」
「ダデルさんなら絶対良さ解るで思うす。フェス出店も依頼してみだらどうだす?多分ノッでくれるすよ」
「八衣とか良さそう。是非来てほしい!」

  

最後にモカソフトとアイスコーヒーでひんやり〆る。これから5月だというのに東北でさえ暑く、今思えばこの後猛暑日続きの夏が来る予兆であったのかもしれない。

  

「久さんもあぎだフェス開催の折には、出店の検討よろしくお願いするす」
「カレーとかで良ければ!」
「カレーもあるんですか?」
「んだ。カレーもんめぁんだんてね」
「いやあ、ありがとうございます」

  

早速あきたフェスのブース出店者第1号を確保したタテル。ここで県の担当者とは一旦お別れである。
「今度まだリモートででも打ぢ合わせそー。態々来ていだだぐのは大変だべがら」
「本当は何度も足を運びたいところなんですけどね、ちょっと忙しいので」
「忙しぇのはえごどだすよ。新メンバーさん達の初舞台にもなるすもんね、おいがだも精一杯協力するす!」

  

しかしこのフェス計画は、どういう訳かDP社社長・野元友揶にも漏れていた。彼は世界的ガールズグループ・THE GIRLSをプロデュースする敏腕社長ではあるが、排外主義思想が強いきらいにある。彼の思想に唯一賛同する所属アーティスト・サヤコに愚痴を吐く。
「秋田でフェスをやるだと?しかも県の協賛で」
「秋田愛が強いタテルを、県の関係者が気に入ったみたいで」
「良くないね。人口の減少している地方都市が、アーティストを利用して都心部の住民から金を巻き上げようとしている」
「移住者も増やそうとしてるのでしょうね。地方創生やら何やら言いたいのでしょうが」
「東京一極集中を是正したい、なんてタテルは言ってたよ」
「一極集中の何が悪いんだか。小さな都市が廃れて大都市が発展する、当たり前のことですよね」
「その通りだよサヤコちゃん。効率で世の中は回るものだよ。政治的思惑に塗れたフェスは阻止しないとね、タテルちゃん」

  

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