連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』43杯目(一燈/新小岩)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共97年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

タテルの両親に挨拶して以降、2人はより多くの時間を過ごすようになった。夜遅い時間まで基地にいることも増え、夜景を眺めながらどうでもいい話をしたりする。
「うわぁ!夜景綺麗だ」
「あれが東京タワーであれがサンシャインで…」
「あの高い鉄塔みたいなやつは?」
「防衛省の市ヶ谷駐屯地」
「へぇ、それは知らなかった」
「であれが日本一高いビルの麻布台ヒルズ。まあ直にトーチタワーに抜かれるんだけどね」
「それはちょっと悲しい」
「高層ビルが増えていくように、時代は絶えず変化していく。でも俺らの絆は変わらないと信じているから」

  

「そういえば京子、ピアノの練習ってやらないの?」
「あそうだ、言うの忘れてたね。レッスンしてくれるYouTuberの方、見つかりました!」
「良かったじゃん!待ちに待った京子の弾き語りが聴けるようになる!」
「まだレッスン始まってないから。明日ここに来てくれるって」
「楽しみだなぁ」

  

翌日、現れたのはCHOJOでも優勝経験のあるタレント・広島れもんであった。
「えっ⁈本当にすごい人じゃん」驚くタテル。
「レモンサワーになりたいの〜!どうも、広島れもんです」
「れもんさん、よろしくお願いします!」
「ちょっと待って、整理がつかないよ」
「じゃあ早速レッスン始めましょう。まず楽譜の読み方から…」

  

ラーメンを食べる時以上にレッスンに夢中になっていた京子。知識を入れるのは苦手だが、実際に手を動かしながら学ぶと不思議と頭に入っていくものだ。
「楽しそうだな。俺もやりたい」
「ダメ。これは私のピアノよ」
「ちょっと触るくらい…」
「今レッスン中だから入ってこないで!」
「いいじゃん別に!」
「集中させてよ!」
「2人とも、喧嘩は止めてください!」
「ごめんなさい。人に見せるものではなかった」
タテルは大人しく引き下がった。この日京子はずっとピアノ練習に明け暮れ、タテルは黙々と動画編集するほかなかった。

  

「じゃあ今日はここまで!次は3日後、よろしくね!」
「ありがとうございました!大石田さん、この動画はいつ上げますか?」
「これね、ラーメン動画とはチャンネル分けた方がいいと思う」
「え?そうなんですか?」
「YouTubeのアルゴリズムだと…」
「タテルくん、アルゴリズムって何?」
「コンピュータが何か物事を処理したり問題解決する時に採るやり方のこと」
「そうそう。1つのチャンネルで違うジャンルの動画を並行させると、そのチャンネルが何を押し出したいのかわからなくてYouTubeのシステム上おすすめに乗りにくくなる。だからメインチャンネルでラーメン動画をやって、ピアノ動画はサブチャンネル作ってそこに載せる」
「へぇ、サブチャンネルってそういう使い方するんだ」

  

その後無事にサブチャンネル『京子、ピアノ女王への道』が開設されると、登録者数は一気に5万人を突破した。再生回数に至ってはメインチャンネルのラーメン動画よりも多くなり、タテルはメインがサブに食われる不安に駆られた。この頃になると京子はグループ活動も個人活動も大忙しで、そこにピアノのレッスンが入ると、ラーメンのこと、そしてタテルのことを顧みなくなっていた。

  

久しぶりに予定が合った2人は新小岩で待ち合わせた。タテルは京子との再会を喜びつつも、構ってくれないことが不満であった。
「ごめんねタテルくん、全然会えなくて」
「寂しかったよ京子。いくらなんでもピアノに夢中になりすぎ」
「だって早く弾けるようになりたいから」
「まあそうだけどさ…」

  

この日最初に訪れた店はつけ麺の有名店「一燈」。EPARKで予約して訪れたが、平日の昼だったため飛び込みでも待たずに入ることができたようである。

  

「どうなんだ、ピアノの練習は」
「少しずつ曲に挑んでいるけど、やっぱ難しいね」
「だよな。両手を器用に動かすの、どうやったらできるんだろうと思う」
「そうそう。片手ずつなら弾けるけど、両手だとね…」
「まあじっくりやるのみだね。上手い人でも生涯ずっと練習だっていうし、片手間じゃなかなかね…」
「片手間⁈私真剣にやってるんだけど」
「え?俺余計なこと言った?」
「余計だよ!やる気削ぐようなこと言わないで!」

  

雰囲気の悪くなった2人の元につけ麺がやってきた。スープは濃厚ではあるが華やかさもある。麺との絡みもよく完全無欠の仕上がりである。チャーシューも変な脂っこさはなく、鶏チャーシューやつくねといったあっさり要員もいて最後まで食べやすい。

  

微妙だった雰囲気も、美味しいつけ麺の前では解消された。
「余韻まで美味しいね。やっぱ京子と食べる麺は格別だよ」
「私も久しぶりにタテルくんと食べれて嬉しかった。ラーメンっていいよな、って改めて実感した」
「さっきは変なこと言ってごめんな。こんな俺だけど、京子といる時間もっと楽しみたい。忙しいのはわかるけど、その想いだけは捨てられない」
「私も悪かった。ちょっと焦りすぎたよ。タテルくんとの時間も大切にするからさ」
「ありがとう…」

  

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